テレビカメラがやってくる！｜リアクション

テレビカメラがやってくる！

　潮風と共に流れる人々の喧騒。ふと、上司の言葉が耳に蘇る。

「まぁ上手く町の人の声とか聴いてさ、知る人ぞ知るみたいなとこ探してきてよ」

　軽いノリでそう言われてやってきたのは、すでに何度かテレビで特集されている寝子島。
　私が人気番組『笑ってサプライズ！』の名店発掘コーナーのリポーターを任されたのはこれが初めてだ。
　何としても成功させなければ……でないと、もう二度とこんな機会をもらえないかもしれない。
　そう思うと、マイクを握る手にも自然と力がこもる。
「まぁ、俺は二見さんの後ろでカメラだけは回してるんで、頑張ってください」
　カメラマンとしてついてきた竺原は頼りになるのかならないのか分からない。
　とにかく誰か面白そうな人を探そうと視線を巡らせた。
「あ、二見さん。あの人……」
　竺原が指さした先の人物を見つけると、気付いた時には足が動いていた。
　とにかく誰でもいい。何か面白いネタを、何か……っ！

　大学の帰り道、ドタドタと走ってくる音がしてふと足を止めると、
「ちょっとお時間よろしいですか！？」
　と、すごい剣幕で言われた。マイクにカメラのセットを確認して、
「取材ですか？」
「あ、そ、そうなんです！　『笑ってサプライズ！』という番組の地元の名店を探すコーナーでして……その、良かったら取材させていただいても？」
「いいですよ」
　即答すると、一瞬驚いたような、そして安心したような表情をする女性。
「ありがとうございます。それで、先ほどから気になってたんですけど、ものすごくスタイル良いですね。お仕事とかは？」
「学生なんですけど、読者モデルもやってます。城山水樹です。よろしくお願いします」
「あぁ通りで！　じゃあ、城山さんのおススメのお店とか教えていただいてもいいですか？」
「おススメのお店ですか？　それなら近くに古……」
　そこまで言いかけてはっとする。公共の電波で自分の家でもある古本屋を教えるのは少しリスキーな気がする。
　もしストーカーなんて出てきたら、と思うと……。
「古？　なんですか？」
「あ、えーっと、そう！　古着屋さんがあるんですよ。図書館の近くにあって、レディースカジュアル系の服が多いですけど、アクセサリー類も充実してて」
「読者モデルさんも一目置いてる古着屋さんですか。いいですね！　案内していただいても？」
「はい。もちろん」
　ちょっと中・上級者向けのお店だけど、店員さんが丁寧に対応してくれるし、大丈夫だよね。
　今日はそのまま家に帰るつもりだったけど、せっかくだから新しい服でも買いに行こうかな。
　なんて思いながら、２人を引き連れ古着屋目指して歩き始めた。

「うわぁ、この子人懐っこい！　馬を飼ってるなんてすごいですね。あ、そういえばお名前……」
「あ、八神修です。カメラは音とかフラッシュは控えていただけるようお願いします。馬たちが怯えるので」
　そう言うと、カメラマンの男性は短く返事をして何やら機械をいじり始めた。
　ラファールは今日も機嫌が良いようで、リポーターの女性に顔をすり寄せている。
　地元の名店、と言っても飲食店などは被りそうだと思い、ここ『星ヶ丘ホースクラブ』を提案してみた。
　以前にも紹介されたことはあるため、今回は趣向を変えようと思う。
「まぁ、僕が動物好きってこともあるんですけど、妙に懐かれたということもありまして。では、少し診察室も覗いてみますか？」
「覗けるんですか？！」
「普段はダメなんですけど、今日は特別ということで」
「ありがとうございます！」
　予想以上の食いつきに面喰うが、興味を持ってもらえたようなので診察室へ案内した。
「見慣れない器具がたくさんありますね。これは何ですか？」
「その辺は馬の蹄を調整する器具ですね。馬にもいろいろな足の形のものがいるので、それぞれにあった蹄を作り、また定期的に検査をして新しいものに取り換えるんです」
「へぇ！　馬の靴、という感じですね」
「そうですね」
　一通り案内し終わり、ホースクラブを後にしながらリポーターの二見さんはホクホクとした表情で頭を下げた。
「本当にありがとうございました！　この島の人たちはみんな親切で安心しました。最初は不安でしたが、何とかなりそうな気がします！」
「まだ取材は続けられるんですか？」
「そうですね。もう少し」
「良ければ友人を紹介しますよ？　おそらく取材にも物怖じしないと思いますけど」
「八神さんのお友達ですか。では、お願いします！」
　きっと今日もふらっと出かけているだろう。
　俺とはまた違う趣向の店も紹介してくれるだろうし、と真央の姿を思い浮かべた。

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テレビカメラがやってくる！

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