進路相談、君等の道【中学編】｜リアクション

進路相談、君等の道【中学編】

○校長室　新江天懸
　
「は？　何、進路相談俺だけ別室でやるって何だよ！？」　
　天懸が担任から告げられた場所は、校長室でした。
　不真面目でテキトー、本土で暴力不純異性交友色々な問題行動を起こし半ば強制的に親戚の家に放り込まれた天懸。
　学校内で誰かとトラブルは起こさないものの、遅刻自主早退当たり前。無断外出で遊びまわっている彼に担任の武田先生はほとほと手を焼いていました。
　そのくせ成績は上の上。特に理数科目はほぼ満点とあって、不良だと切り捨てるわけにはいかなかったのです。
　そこで、生活態度の指導も兼ねて、先生は杉村小春校長に進路指導を依頼したのです。

「あ？　なんだよ杉村かよ進路相談」
　ノックもせず無言で部屋に入った天懸は、校長を鋭い目で睨み付けました。
「そこに座るざます」
　赤いフレームのメガネについた銀のチェーンをキラリと光らせながら校長は言います。
　どっかと椅子に腰をおろした天懸も、足を組んで顎を突き出し負けずに堂々とした様子です。
「そーだ、この間異装届がどうのこうのいってたよな？　少なくとも俺の地毛は金髪だからその分は申請させてもらうぜ」
　キンキン声の注意を、天懸は忘れていなかったようです。校長は頷きました。
「わかったざます。後で武田先生に用紙を渡しておくざます。ただしピアスは認められないざますよ」
「わーってるって。で、進路相談だっけ？」
　かったるいとばかりに、天懸は話を変えます。
「そうざます。そんな格好では進学にも支障をきたしかねないざます。進路はどう考えてるざます？」
「あー高校進学でいいわ。成績的にどこでも入れるって先こ……先生達は思ってそうだし。といっても俺来年からその先この島にいるって確証はないからなー」
「来年はすぐざますよ？　ご両親はなんておっしゃってるざます？」
「知らねーよ。母親が高校くらい出ておけっていってるし、まーそんな理由で高校は行くけどな。とりあえず島内の学校って仮定して話すすめておくか」
「島内といったら寝子島高校ざますね」
　校長は資料を広げます。
「あー、資料見せてくれよ。なんだこの島ってひとつしか高校ないのかよ」
「橋を渡れば木天蓼第一高校もあるざます。そちらのほうが大学進学率は高いざますよ」
「大学とかどうでもいいよ」
　天懸が見たいのは野球部があるかどうかなのです。
　部活のページを見ていると、それに気づいた校長がいいました。
「野球部が気になるざますか？」　
「何で……そうか、俺の資料見たんだな」
　言い当てられて少し驚いた天懸ですが、すぐに思い当たりました。
「有名なリトルシニアチームのピッチャーだったそうざますね。いい成績だったというじゃありませんか」
「ふん、言っとくがここの学校で野球部に入る気はねえぜ」
「残念ざますね。でも寝子高は今年甲子園に出場してるざますよ」
「久しぶりの出場らしいけどな」
　天懸の頭の中に、新聞で見た寝子高野球部のデータが浮かんでいました。
「監督もシロートらしいし、まぐれじゃねえのか」
「私には野球のことはわからないざますが。おそらく来年は甲子園目指して強い生徒が集まるざますね」
「なるほどな……」
　天懸は甲子園での野球部の写真を見ながら、何事か考えているようでした。