進路相談、君等の道【中学編】｜リアクション

進路相談、君等の道【中学編】

○２－３　猫屋敷姫

「行きたいとこなんて決まってますのに」
　そうつぶやいて、小柄なツインテールの姫が教室に入ると、加藤秀雄先生が待っていました。
　ふてぶてしい面構えの先生は、姫の顔を見ると面白そうな表情を浮かべました。
「まあ座れ。進路相談を始める」
　しかし姫がつかつかと進んだのは、勧められた椅子ではなく教壇でした。
「進路相談、です？」
　そう言うと、芝居がかった動作で教壇に上り、タップを踏みます。まるでミュージカルのように。
「フッ、先生！（＼カッ／）
　この！　私が！　（＼カカッ／）
　寝子高以外を！　（＼ダンッ／）
　選ぶと思いますです！？　（＼シャキーン／）」
　最後にポーズを決めると、パチパチパチ……先生がゆっくりと拍手をしました。
　それに一礼すると、姫は席に戻りました。

「嗚呼、第一志望以外書いてないじゃないかということですか」
　座ったと思うと、今度は片手を後ろに引き、前に向かって投げるようなポーズをしました。
「そのへん適当でいいです鎌倉とか湘南とか」
「投げ槍、のポーズというわけか」
　それに頷くと、姫は続けました。
「『我々』はこの島に生を受け
　『我々』はこの島で育った。
　この島の長き歴史に、まあ刻まれてはいないでしょうが古くから続く我が一族。
　井の中の蛙とならぬよう外界へ赴く事もありましょうが、
　生憎この島とこの島の猫達を愛しておりますので長い事離れるのは
　御免被る！
　嗚呼、この島に縛られし呪われた一族、その名は猫屋敷！」
　身長の割に胸が大きいせいか、妖艶な雰囲気を感じさせる姫。
　その朗々と続く台詞が途切れると、加藤先生はまた拍手をしました。
「……と、こんなところです。幸せなので言うことなしですグッジョブ呪い」
「猫神家の一族と言ったところか。そんなに猫が好きか？」
「猫好きですよ他の動物も好きですが。魚もよく見ると可愛いですよね……おっとよだれが」
　ジュルリ、と姫は大げさによだれを啜って見せます。
「猫に囲まれた生活は日常なので。先生はイカがですかもし退職したらこの島でスローライフでも」
「そうだな、考えておこう……って俺の進路相談に乗ってるのか？」
　姫は成績優秀で、寝子高への進学は問題ないだろう、と先生は考えています。
　悪戯好きですが生活態度も良好。演技派で突然芝居を始めるナルシストぶりは、先生の趣味に合っています。
「お前はいい役者になれるな」
「役者ですか？　将来は猫に関われる仕事か、猫に関わる時間がとれるゆったりした仕事をしたいですねー。そして旧市街のお爺様お婆様みたいな隠居生活を送りたい」
「優雅だな。だが世の中そんなに甘くないぞ」
　加藤先生は肩をすくめます。
「知ってるです」
　そう言って姫は、毅然と立ち上がりポーズを決めながら言いました。
「だから実現してみせるのです」
　そんな姫に先生は、三たび拍手を送ったのでした。

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