進路相談、君等の道【中学編】｜リアクション

進路相談、君等の道【中学編】

○３－４　青倉白

　真面目そうな三つ編みの少女が、教室のドアをノックしました。
「どうぞ」
　迎えてくれたのは「しむせん」こと志村旭先生。今年定年退職予定のベテランの先生は、にこやかに白に椅子を勧めてくれました。
「白は寝子高志望だったね」
「はい、でも、あの……」
「何か気になることでもあるのかな」
　口ごもっていた白ですが、志村先生の優しい問いかけに思い切って口を開きました。
「先生、進路の希望と合わせて質問、というか相談してもいいですか？」
「ああ、もちろんだよ」
「正直に言って今の私に将来の夢とか、こうなりたいっていう目標はないんです。だからクラスのみんなも志望してる寝子島高校普通科に普通に進学して、普通に勉強して、そうしているうちに何か自分にもやりたいことが見つかったらいいな、なんてそんな風に漠然と考えていました」
　志村先生は、無言で頷きながら聞いています。
　白の成績は上の下くらい。生活態度は至って良好。目立つ方ではないけれど、誰に対しても優しく穏やかな白は、問題のない生徒だと言えました。
「けど、『普通』にしていて、それで何か特別なものって本当に見つかるのかなって、最近怖くなるんです」
　このもやもやした悩みがちゃんと伝わるのか。不安になりつつ、先生の顔を見上げて白は続けます。
「もしかしたら何も見つからないんじゃないか、このままじゃダメなんじゃないか、なんて思うと、今まで普通でいいと思っていたことがどんどん怖くなってきて……。
漠然とした話でごめんなさい」
「いや、かまわないよ」
　先生は微笑みます。
「でも、この悩みを何とかしないと、胸を張ってクラスのみんなの前で進路希望を言えないような気がしてます」
「なるほどな。白の気持ちはわかるよ。何も考えずに流されているより、ずっと素晴らしいことだな」
「そうでしょうか……あの、先生の場合はどうだったんですか？」
「私かい？」
「いつごろどうして先生になろうと思ったんですか？　私がどうするべきなのか、そこから何か感じ取れたらいいな、なんて思います」　
　白はひたむきに志村先生を見つめていました。

　先生はしばらく考えて、遠くを見るような懐かしそうな目をしました。
「昔の話だがね。私に書を教えてくれた先生がいたんだ。書は心を落ち着けてくれた。不安なときも、焦っているときも、無心になれたよ」
「その先生の影響……ですか」
「そんなところかな」
　先生は、白に向き直ると言いました。
「まずは進んでみることだ。普通かどうかは関係ない。進んでみないと見えてこない景色がある。他の人にとっては普通でも、一生懸命やることで、それは白にとっての特別になるはずだ。決して無駄にはならないよ」
「そうか……そうなんですね」
　白は頷きました。
「為せば成る為さねば成らぬ何事も。成らぬは人の為さぬなりけり」
　しむせんはお得意の名言で、進路指導を〆ました。