進路相談、君等の道【中学編】｜リアクション

進路相談、君等の道【中学編】

○２－１　津島直治

　無愛想でつっけんどん。それが周囲から見た直治の印象でした。
　今もそんな様子で、小林先生の前に座っています。
「今は……寝子島高校に進学しようって思ってる……」
　特筆して悪い点も良い点も見当たらないまずまずの成績。やや無愛想な点があるものの、いたって真面目な優等生です。
　年上にもタメ口。でも実は人前で話す普通の男子口調は、直治の素ではありません。
（どうしたらいいんでしょうか。いつまでも叔父様の家に居候するのは迷惑がかかってしまうでしょうし、かといって寮住まいというのも……迷惑をかけてしまいそうです）
　正直まだ直治は迷っていました。
　その悶々とした迷いが顔に出たのでしょうか。
　小林先生は、直治の目を覗き込むように言いました。
「もしかして……何か不安があるのかしら？　よかったら聞かせてくれませんか？」
「えっと……」
　言葉を切り、ちょっと迷ってから直治は、とりあえず正直に話してみることにしました。

「本当は実家に戻りたくないだけなのかもしれない……」　
「そうなの。今は叔父様の家から通っているんだったわね。ご両親とうまくいっていないのかしら？」
「元々両親の言いなりになるのが嫌でこっちにきたんだ。今じゃ『お前の好きにしなさい』って言われてる」
「それなら、寝子高でも問題ないのね」
（……けど―）
　口調は強がって男らしくしてみても、直治にはネガティブで子供っぽい面があります。
「でも、いざ自由になると、俺に何ができるのか……俺は何がしたいのかがわからなくて……」
「そうねえ。すぐにはわからなくて当然だと思うわ」
　先生は頷きました。
（それでも家にはまだ帰りたくありません。寝子高に進学したい気持ちは嘘ではないのですが、それほど強く望んでいるわけでもないですし）
　心の中では丁寧語。敬語をつかって喋るほうが本当は楽な直治でした。
　でも自分の素の言動が年相応ではないと気にして、無愛想な男子口調を使っているのです。

「俺は……私はこのままでいいのでしょうか？」
　いつのまにか口をついて出た素の直治の言葉に、小林先生は目を丸くしました。
　それから優しく微笑みました。
「ありのままでいいと思うわ」
「ありのまま……って」
「まだ一年あるし、もう少し考えて決めてもいいのよ。そういえば」
　小林先生は手元の資料に目を止めました。
「寝子島クラシック同好会に入ってるんですってね。まずはそういうのでもいいんじゃないかしら。いろんな人と知り合う機会もあるでしょうし、知らない世界が開けると思うわ」
「あ……いろんな人がいて、面白いです」
（あそこにいるのは好きだし……それで、いいんでしょうか）
　答えながら直治は、なんとなく気が軽くなるのでした。

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