せんせいといっしょ：久保田先生編｜リアクション

せんせいといっしょ：久保田先生編

破：この際色々聞いてみよう？

「ウーノ、ドゥーエ、トレ……じゃなかっタ！　いーち、にぃ、さーん……」
　間違えないよう、必死になって数えるセレッソに、華菜子が苦笑する。
「肩に力が入りすぎアル。数え易い数え方でやるヨロシ」
「いいのデスカ？」
「その方が、楽だと思いますよ？」
　きょとん、とするセレッソに、綾花も頷く。彼女は出来上がった物を整えると、一定量ずつ互い違いに詰んだ。
（同じクラスの方や寮の方がいて良かった）
　知らない人ばかりだと緊張してしまったかもしれない、と思いながら紙に触れる。こういった作業は好きな上、新歓祭でのパンフ作りの経験もあって手馴れている。セレッソ達にコツを教えつつ作業しているうちに、もっと楽しいと思っている自分に気付いた。
「日本語をちゃんと教えてくれるから、美和チャンせんせーが大好きナノ♪　お世話になっている分、頑張らなくチャ！」
「アタシは、家の手伝いで遅刻気味アル。だから、その分頑張るアルよ！」
　　纏まったプリントを積み上げつつ、両手を握り締めるセレッソと、気合充分、といった様子の華菜子に釣られ、綾花も笑顔になる。この調子なら、思ったより早く終わるかもしれない。
「私も、負けてられませんね♪」

「……やる気みなぎってるね」
　八兵衛の視線の先。黙々とプリントを集めてホッチキスで留める瞬平と庚の姿があった。妙に競っている感が否めないのは気のせいではなさそうだ。
（興醒めだ。……決着は別の日につけるか）
　庚はふぅ、と溜め息を付きつつプリントをちらり、と見る。その内容は授業で学ぶであろう、随筆の舞台や筆者についての参考資料。その内容は元々文学少年でもある彼の琴線に触れたようだ。
（しっかし、調子狂う）
　一方、瞬平はちらり、と美和を見る。脅そうが睨もうが何処吹く風、といった様子の女性教師は今も笑顔で作業を手早くやっていた。時折生徒たちと話したりする所を見ると、心を掴んでいる様子が伺える。
（ともかく、終ったら帰ろう。うん）
　こうなってしまったら喧嘩どころではない。毒気を抜かれた瞬平は兎に角、庚には負けるまい、と作業に集中し……、一枚足りない事に気付いた。
「あ、一枚抜かした」
「これかな？」
　八兵衛が一枚差し出だし、纏まった所をホッチキスで留める。ふと目があった瞬平と庚だったが
「それじゃ、持ってくよ」
　と八兵衛が出来上がった分を受け取って、積み重ねる。またも毒気抜かれた形となり、２人は同じ事を考えた。

　――今度は、あの先生がいないかよくチェックしよう。

このページにイラストを設定する