ゴールは寝子島変電所｜リアクション

ゴールは寝子島変電所

【狂気再来】　
　
　じりじりと肌に這うように汗が噴き出ては流れていく。
　断続的な呼吸と共に体力が無くなっていくようだ。
「はぁ、はぁ……げほっ」
　汚物を吐き出すように咳をする。
　現実感のないこの寝子島で、浅葱あやめは必死に逃げていた。
　気がついたらいたほの暗い寝子ヶ浜海浜公園、大観覧車を横手に見つつ走る。
　アスファルトの道は硬いと分かっていながらも、どこか踏みしめるたびに重さを感じ……、それは疲労がそうさせているのでは、と逃げながらあやめは思った。
　そんなあやめの前に、突如遭遇するかのようにぎょろりと目玉が一つ現れる。
（浅葱あやめ1d20→16）
「――ッ！　……あぁ……あぁ――う」
　大目玉のイソギンチャクと目が合い、心の中を引っかき回される。
「うぅ……ゅ」
　へたり込みそうになるのをこらえるが、足がすくむ。
　だからといって、逃げるほどの気力が沸くとも限らない。
　半ばへたり込んで座るのを避けるようにじりじりと後ずさる。
　度がないオーバーグラスサングラス越しのこれらの光景は、あやめの心を砕くのに十分すぎた。
（……もう）
　逃げる事が可能なのにもかかわらず、あきらめようとするあやめ。
「爆ぜろ！」
　ゆっくりと近づくイソギンチャクの目玉の付近に、突如閃光のような炎が現れた。
　ろっこん【イグニッションハート】。フツウの危機にいつもよりはじけた炎は、イソギンチャクの動きを止める。
「こっちだ」
　あやめの前に現れたのは灯斗南。
（灯斗南　1d20→12）
　イソギンチャクを見ざるを得ないリスクを負いつつも、持ってきた仮面を取る。
　そうして、素顔をさらし、あやめを安心させると、あやめのほうへとかけより手を取って、観覧車から遠ざかるように走る。
「……は、速ぃ」
　足をもつれさせつつも、走る。
「走るんだ。狂いたくなければ」
　あやめは目を見張った。普段は面倒臭がりで、どこか緩んでいる斗南が、真剣だった。
　……こうして、二人は観覧車から遠ざかるように走り始めた。
　
　……さて、そんな光景をちらっと見ていた人間がいた。
「……男子二人が手と手を取り合って逃げる光景……う～ん、造形の問題が」
　危機感の欠片はあるものの、己の趣味を優先する人間も存在する。
　小野田万里、永遠の喪女を自称する彼女は、その光景を見てため息をついた。
「美少年……」
　といいつつも、脱出しようと万里も走り出そうとするが……。
（あ、ちょっと無理かも）
　自分の進路上へイソギンチャクが来たため、再び身を潜めるのであった。

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