【中間テスト】テスト狂想曲　～先生問題作ってよ？！～｜リアクション

【中間テスト】テスト狂想曲　～先生問題作ってよ？！～

「ならば、私が一緒に作ろうじゃないか！」
「ちょっと待て！　それはまずい！！」
　博美がすぐさまつっこみを入れる。同時に小鳥が大きく鳴き、時子が表情を険しくする。尚輝は机にだらしなく頬を乗せ、ぐったりと両手を投げ出す。
「それも……いいかも、しれませんね……」
　そんな事を言い出す尚輝。小鳥は焦ったようにピーピーと激しく鳴き、時子が心配そうな顔になる。
「あの……空さんの一言で、よりやる気がなくなったように思われます……」
　小鳥は『先生のやる気がなんだかより減った』とか『そんなことをいうからやる気が余計に出ない～』とか言っていたのだ。
「それにさ。オレたちで問題を作るのって……なんか、不正っぽいよ」
　真面目な顔で博美が言い、空は空で表情を険しくする。
「君、細かい事を言うな。テストが完成しないほうが問題なのだぞ？」
「それでも、不正じゃなくても『自分』の中で不正かもと思えてしまう行為はやりたくないんだよ。『試験問題の具体例を挙げてみて』なんて言われて、答えた問題が実際に問題となったとしたらカンニングみたいで嫌だし」
　博美は胸を押さえて言葉を続ける。化学室に僅かな緊張が走り、時子は静かに様子を見守る。空としては、ここで問題製作を手伝えば問題が解るから高得点が狙えるし先生としても問題が出来上がるから両者とも得する、と思っていた。
「たとえ他の人が文句を言わなくても、オレがオレに文句言いたくなる。だから……」
　博美が空の目を見てそう言うと、空は少しばつが悪そうな顔になった。
「あのっ……」
　そんな２人に、空気を変えようと時子が声をかける。
「その、先生のやる気が出るかは解りませんけれど……、実験道具を出してみませんか？」

　時子の提案でひとまず実験に必要な道具を出してみる事に。綺麗に洗われたビーカーや試験管など（しかもコーヒー用）は妙に優しい香りがしている。
「これを使って、コーヒーを入れてみようと、思います……」
　時子の記憶では、尚輝は化学実験の応用でコーヒーを入れていた。だが、机にあったのはインスタントコーヒーの入ったスティック状パックとお湯の入ったビーカーだった。傍においているアルコールランプで温めたのだろう。
　時子は博美と空に手伝ってもらいながらサイフォンを使ってコーヒーを淹れる。その香ばしい香りが漂った時、尚輝の身がぴくり、と動いた気がした。
「皆さん、上手……ですね」
　どこか（普段に比べて）楽しげな声。尚輝は、いつのまにか身を起こしていた。それに３人は笑顔になる。早速４人でコーヒーを飲むと、尚輝の表情が少し引き締まったような気がした。
「やはり、テストの問題は……自分で作らなければなりません、ね」
「オレに出来る事があれば手伝うよ。といっても、物を運んだりとかになるけど……」
　尚輝が僅かに苦笑し、博美が張り切って声をかける。時子が安堵の息を吐くと空は「先生がそういうならば……」と肩をすくめた。
「みなさん、ご迷惑、おかけしました。……テスト問題、今からでも作りますよ」
　尚輝は穏やかにそういい、そっと自分の胸に手を当てた。同時に、僅かにだが彼の背筋が伸びたように見え、光の粒が弾けて消えた。

【五十嵐尚輝は、やる気を取り戻した！】

「あの……」
　ふと、時子が声を上げる。
「どうした？」「どうしました？」
　空と尚輝が同時に声をかけ、博美も「ん？」と首をかしげる。時子が壁にかけられた時計を見ると、既にお昼ご飯の時間になっていた。
「もしよかったら……皆で食べませんか？」
　そういって時子はお弁当を取り出した。