寝子小の写生大会｜リアクション

寝子小の写生大会

　【４】
　修が立ち去ったあと、ろっこんの効果は消え、三奈は元の小学生の姿に戻った。
　そのことに安堵して、彼女は絵を描いていた場所へと帰って行く。
「三奈、どこへ行っていたんだ？」
　戻ってみれば、すでにあいらと裕司も帰って来ていた。あいらに問われて、三奈はしばし答えに困る。
「あ……その……。トイレに行ったら、道に迷っちゃって……」
「もしかして、方向音痴なのか？」
　なんとか思いついた言い訳を口にする彼女に、あいらは顔をしかめた。
「あ……う……。そ、そんなところかしら……」
　三奈はしかたなく、笑ってごまかす。
　そんな彼女に、裕司がコンビニの袋を差し出した。
「これ、君に」
「え？　なあに？」
　思わず受け取りながら問い返す三奈に、あいらが言った。
「お土産だ。伝言にも書いたが、高校生のお兄さんとお姉さんに、お弁当を分けてもらった。三奈の分も、もらって来た」
「ありがとう」
　礼を言って、三奈は袋の中を覗き込む。中に入っていたのは、俵型のおむすびと果物のゼリー寄せだった。

　一方、公園の東側にいる者たちは。
「はあ、食った食った」
「すっかり、お腹一杯だねー」
　竜司と荒太郎が、腹をさすりながら満足の吐息をついた。
　重箱は空になり、自分たちの弁当も食べた海美とあさひは、少し苦しそうだ。
「まおちゃんのお弁当、すごくおいしかったよ。ごちそうさまでした」
　海美が言って、手を合わせてみせる。それから、あさひの方をふり返った。
「あさひちゃんも、フルーツサンド、ありがとう！」
「クリームもいっしょにはさまってて、甘くておいしかったねぇ」
　あさひも、にっこり笑ってうなずく。
　二人はそれぞれ、おかずを交換して食べたのだ。
　そこへ、修が戻って来た。
　真央と遊んでいた子猫のブルーが、そちらへ駆け寄る。修はブルーを抱き上げ、軽く頭を撫でてやってから、真央を見やった。
「すまなかったな」
「別にいいのだ。ブルーと遊ぶのは、楽しいのだ」
　笑って返し、真央は彼の方へと歩み寄る。
「ところで、どこへ行っていたのだ？」
「池の方だ。ただの散策のつもりだったが、つい描いてしまった」
　言って彼は、十七歳の少女になった三奈の絵を見せた。
「いい感じなのだ」
　軽く目を見張って言う真央に、歩み寄って来た竜司も感心したように口を挟む。
「うまいもんだ。……ま、俺ならモデルはもっと若い方がいいけどな」
「冴木先輩には、かなわないな」
　修は苦笑し、真央と話を聞いていた荒太郎も笑い出した。

　ややあって、教師たちが休憩の終わりをふれ回り始めた。
「つづき、がんばって描こうねぇ」
　あさひが言って、絵を描きに戻る。
「うん」
　海美も大きくうなずいて、画板を膝に乗せると筆を動かし始めた。
　それを見やって、真央は手早く空になった重箱をかたずけると、デジカメを手にした。
「写真を撮りまくるのだ！」
　そうして、さっそく二人の姿を何枚か撮ると、他の小学生たちの姿も撮ろうと荷物を自転車のところに置いて、駆け去って行く。
　それを見送り、修はブルーを抱いたまま、自分ももう少しあたりを散策して絵を描こうと歩き出す。
　それを見やって、竜司は荒太郎をふり返った。
「俺たちも、もうちょっとお嬢さんたちと、交流してから買い出しに行こうか」
「そうだねー」
　他の小学生たちの絵も見てみたいと思った荒太郎は、うなずく。
　こうして、二人もまたその場を離れて行ったのだった。