探偵ケチャップの寝子島住民調査ファイル｜リアクション

探偵ケチャップの寝子島住民調査ファイル

　春賀神社の縁側で、春賀幽は一人部活動の課題に勤しんでいた。
（何かいいネタはないですかねぇ）
　新聞部の記事作成。なかなかはかどらない。こんなのどかな陽気の、のほほんとした縁側にいるのだから仕方がない。
（ふぅ、先に絵を仕上げますかぁ）
　ペンから絵筆へ持ち替える。こちらは景色が十分すぎるほどに豊かなためサクサク進む。
　が。太陽が雲に隠れて敷地一帯が陰ったとき、不意に背後から視線を感じた。

（いますねぇ〜妙なのが）
　一匹……いや一羽か。高所からこちらを観察している。おそらくカラスだろう。
（以前にも……妙なカラスとの遭遇はありました。今回もその一味と見るべきでしょうねぇ）
　あくまで、気づいていない風を装って、境内をスケッチし続ける。
　空が動き、次第に辺りが明るくなっていく。明暗の境界線がちょうど縁側にさしかかり、幽の体を真っ二つにするかどうかくらいのタイミングで、彼はそっと筆を横に置いた。代わってお古の方の、折れかけた筆を拾い上げる。
（ちょっとネタ集めしてみますか）
　目にも留まらぬはまさにこの動き。座った状態から反転跳躍し、遠心力も利用した運動エネルギーで、背後のカラスに向け筆を投擲。カラスの留まる木の上めがけ矢の如く飛んでいく。
　揺れる枝葉。鴉は寸でのところで避けた。
（楽しませてくださいよぉ）
　幽であればカラスの心臓を貫くほどの威力で筆を投げることができたかもしれない。しかし回避できるようわざと弱めていた。いきなり終わってしまったら何も面白くない。
　カメラを首から下げ、距離を一気に詰める。カラスが状況を把握するのに戸惑っている合間に、幽は木下にまで迫っていた。
「カァ」
　とカラスが一鳴きしたときには、ジャンプですぐ真下の枝にまで飛び移っている。
（カラスの驚く表情、いいですねぇ）
　フラッシュと手振れ防止機能を起動してパシャリ。と同時に枝を一本拝借してまたカラス目がけて放る。
「カァ！」
　今度は命中。痛みはさほどでもないはず。
（戦闘系のカラスではないようですねぇ）
　と分析した直後。幽の両サイドから飛び込んでくる気配を察知する。
（仲間ですか）
　その仲間たちもやはりカラス。目の前のカラスとは気配の質が違った。間違いなく、幽と戦うために接近している。
（そうこなくちゃ）
　カメラを撮りつつ、二羽の空中突進をジャンプ回避。隣の木へ移ると、メモ帳を取り出してササッと成り行きを書き留める。
（おっと）
　2回目の突撃もサラリと回避。
（短絡的ですねぇ）
　と思いきや、もう一羽のカラスは一気接近すると足の爪で幽を襲いにかかる。
（ではこちらも）
　暗器を取り出して対応。カメラも撮影し続ける。
　最初に見張っていたカラスはすでに空の上だ。
（役割分担されているんですねぇ）
　それだけでも十分にネタになる。
（メモメモっと）
　空中戦の練習がてら、記事のネタ集めでカラスと戦う幽。いずれカラスのほうが音を上げ、空の彼方へと逃げていった。
（追ってもいいですが、今日はここまでにしますかぁ）
　良い運動になった。縁側に戻ってまた、のほほんと絵画と記事作成に勤しむのだった。

＜調査ファイルNo.2605 春賀幽＞
寝子島高校普通科1年4組。
神社の神主。
女の子っぽい見た目の男子。
そのルックスから油断したが、かなりの危険人物。
動きは素早く、攻撃の一つ一つも無駄がなく重い。
戦ったウスターいわく「動きの先が読めない」
底知れない、そしてつかみ所のない男だ。
ろっこん：不明だが、有無に関わらず注意すべし。

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