星ふる夜、いつもとちがう空の下で｜リアクション

星ふる夜、いつもとちがう空の下で

●猫鳴館
　髪を首のうしろで結い、パンツルックにパーカーを羽織った人物。
　猫鳴館からあらわれた神城凛、この人物について何も知らない人なら男だと思うかもしれない。
　それも無理はない。夜になれば、彼女の体は男性のものへと変身するからだ。
　昼間と違った姿になった凛は、ノートと筆記具を片手に館の門をくぐり抜ける。
「皆、流星群にさぞかし浮かれていることだろう。さて、カップルやその他愚民どもを観察だ」
　凛のターゲットは天体ではなく、人間だという。カップルを見かけても邪魔するつもりはないが、面白い行動があればすぐさまノートに記す気でいるらしい。
「行くとしようか」
　人間観察は人に気取られてはいけない。凛は誰と連れ立つでもなく、一人で歩いて行った。
　そして同じようにタイミングを見計らい、誰にも知られず出立しようとする人物が、もうひとり。
　猫鳴館に住まう生徒、逆巻天野であった。
「誰も見てない、ね」
　今宵、流れ星がふるという。
　誰かと一緒でなくていい。今夜は騒々しい街をはなれて、一人で考え事がしたい。
　ペットのハリネズミとハツカネズミを連れて、天野は館をでる。
　誰にも気づかれないよう、こっそり門をぬけたつもりだった。
（「天野……？」）
　出支度をしていた奈良橋博美は、足早に去っていく天野に気づく。
　日ごろ生活リズムを乱したがらない博美だったが、たまには気分転換しようと思い、流星群を見に出かけるのを楽しみにしていた。
　門のところまで出てみると、天野の背が去っていくのが見えた。
　声をかけるか迷ったが、博美は彼の距離をおきたがる性格も知っている。
「……いまはそっとしておいた方が良さそうだな」
　足早に道をいそぐ背中は、どこか寂しそうに映った。