星ふる夜、いつもとちがう空の下で｜リアクション

星ふる夜、いつもとちがう空の下で

●移動会議室RV
　寝静まった桜台の住宅街を、一台の車のヘッドライトが照らす。運転席しているのは星ヶ丘寮の運転手。八十八旗信彦自慢のキャンピングカーだ。
「けっこう山奥まで入れそうじゃん！　いい場所にとめてくれよな！」
　これだけ巨大なキャンピングカーをとめれば、その場所は占拠したようなものだ。
（「そしてハンモックを吊り、あとは……」）
　何かたくらんでいるのか、信彦はにやけ顔だ。
　車に揺られながら、神木煉は同行者の一人をしげしげと眺めていた。
「輝夜も誘われてたなんてな……驚いた」
「煉こそ、くるならくると先に言おうぜー？」
　煉の向かい側に座るのは緋王輝夜。最近、二人の行き先はなぜかかぶってばかりだ。
（「それにしても、行く先々で輝夜をよく見かけるな……」）
（「最近なにかあるたびに煉と一緒になってる気がするぜ。なんでだ……？」）
　この瞬間、考える中身までブッキングしていたことを二人は知らない。
　瑠璃条ベガも同じように信彦にさそわれた一人なのだが、なにやら浮かない様子。
（「この服、へんじゃないかな。外、寒くないかな」）
　孤児院暮らしのベガにとって、夜のお出かけは滅多にない一大イベント。何を着ていこうかと張り切ったまではいいけれど、ベガのクローゼットには選べるほどの服がなかったのだ。
　上半身にはやわらかなアイボリーのポンチョを羽織り、下にはホットパンツとニーハイブーツ、靴下止め。できるかぎりのオシャレをしてみたけれど自信がもてない。
「私なんか、本当に来てよかったのかな……」
　胸のうちの問いかけが切なくて、たまらず声に出してしまった。力なくうつむいたベガの頭に、ヘアゴムの星飾りが寂しそうに輝いている。
「だって、皆とちがってオシャレじゃないし……」
　いきなり流れてきた負のオーラに、信彦が持ち前のトークで雰囲気を変えようと試みる。心配いらないぜベガちー、ついでに言えばそんなにシリアスになることもないんだぜ！
「だーいじょ」
「大丈夫だよ」
　格好よく言い切って安心させるはずが、上穗木千鶴にさらっと先をこされてずっこける信彦。おいおいそこは俺様の出番だぜ？
「流星群を見るのに大事なのは、オシャレ着じゃないよ。みんなで見よう？」
「そうだぜー。もしする事がなければ、あたしのカレー作りを手伝ってくれてもいいからさ！」
　千鶴、つづいて輝夜が笑いかければ、ベガの瞳が輝く。料理なら私も手伝える！
「夕飯は皆でカレー作りか。楽しそうだな……俺も手伝うよ」
「テルヨンナイス！」
「だれがテルヨンかっ！」
　足を踏まれてぎゃーと騒ぐ信彦を尻目に、カレーの話題で盛り上がる車内。
　そんな中、千鶴はひとつのことが気にかかっていた。
「０時から１時かあ……」
　実は千鶴、ふだん寝る時間をとっくにすぎているのだ。
　年齢的にいつも９時に寝ているとは言い出しづらくて、先ほどから眠たいのを必死に我慢している、のだが。　電気式ケトルでお湯をわかし、コーヒーをおかわりしようとして、もう何杯も飲んでしまっているのにようやく気づく。
　すでに頭がまわっておらず、挽きたてのブルーマウンテンのかぐわしい香りはかえって眠気を誘っているようで……。
　キャンピングカーの後部座席には登山用のハイキングウェア一式、それに寝袋とかなり本格的な装備が積まれている。これらはすべて千鶴のものだ。ここまで気合の入った準備をしているのに、寝てしまったら少し悔しい。
（「……ちゃんと起きてられるかなあ」）
　キャンピングカーの車内では、輝夜と信彦の応酬がドタバタ騒動に発展しつつある。
　千鶴は喉まで出かけたあくびを飲み込み、必死にこらえていた。