星ふる夜、いつもとちがう空の下で｜リアクション

星ふる夜、いつもとちがう空の下で

●放課後にひらめいたこと
　学校の帰り道というのはどことなく、たるーい空気が漂っている。
　気分がどうこうでなく、皆して動作が緩慢なのだ。空腹をおさえながら歩くのは結構しんどい。
　丑都渡紗姫の歩き方もそんな塩梅で、キビキビ歩く！　なんてのとは程遠く、足を前へ投げ出すから結果的に歩いてるという言い方が当てはまる。
　下校時にまでそんな真面目アピールをする必要はないとはいえ、死んだ魚のような目で歩いてる寝子高生を見てるのもつまらなく感じて、なにか面白いことはないかとさっきから頻繁に携帯を見ている。
　パカっとひらいてストラップを揺らし、なんとなくねこったーを覗くものの、大した噂もなくパタンと携帯を閉じる。こんなふうにパタパタ開閉できんのもガラケーの間だけかもしれない。
　再び携帯をひらくと、ねこったーの画面が更新されていた。
『今夜たのしみー』
『え、マジで見に行くの』
　――あ、そっか。流星群。さっきラジオでそんなことをいってたっけ。
　噂によると桜台墓地に向かう人が多いそうだが、なんで墓地、と疑問に思う。
（「なんでそんな辛気臭いとこで見るわけ？　一人で行きたくないし、誰か暇そーなヤツ……」）
　頭のなかに浮かんだ男子名簿に紗姫は次々とばってんをつけていく。あいつはダメ、絶対話題がもたない。かといってあんまりおしゃべり男でもしんどいし。
　浮かんだ顔にバツ印をつけて消していく中、一人だけしぶとく消えない男子がいた。
　いっつも眠たそーで、俺やる気ありませんーって感じで、そのわりにお願いとか聞いてくれそうな……ていうか断れそうにないというか。何よりあいつ、絶対暇してそう。
　――決めた。
　ブラウザごとねこったーを閉じて、携帯を電話帳画面に切り替える。
　行梨、と書かれたところでカーソルを止め、ネイルで彩られた紗姫の指がボタンを押した。

　突然着メロが流れだして、行梨謡はやっべと同級生から距離をとった。
「はいーもしもし、行梨です」
『あ、あたしー紗姫ー。ねえ行梨ー暇？　暇してるー？』
「なんだよ丑都渡……電話かけてきていきなりそれいうか……！」
『あっははは』
　ガクッと肩の力が抜けるのを感じつつも、行梨はなるべく男友達と話すときと同じ声のトーンを保つ。紗姫とはフツウの友人だが、些細なことで噂が立つとやりづらい。クラスメイトには先に行ってもらおう。
　それにしても、暇してるーってなんだ。どーせ暇してますよ、ええ。
「用件をいえ、用件」
　若干トゲのある行梨の声に、電話口から『おこったー？』と紗姫の笑う声が聞こえる。
『りゅーせーぐん』
「へ？」
『だーかーらー、今夜降るんだってさ』
「ふーん」
　気のない返事を返す。単なる話題のひとつだろうと思った。
　だから、謡は危うくその次の言葉も聞き漏らすところだった。
　電話口から聞こえた言葉に不機嫌そうな眉がぴくっとはね上がり、あわてて尋ね返す。
「待て、何？　どこでって？」
『今夜１１時、桜台の公園でね』
　なかば強引に決められたまま電話が切れてしまった。
　１１時に桜台。はやめに明日の準備をしておけば行けなくはない。
　――紗姫から出された指令。流星群がみたいけどぼっちも嫌なので桜台に来なさい。
「優しい俺に感謝するべし」
　そういうと、謡はいつもより早足気味に家へと帰っていった。

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