星ふる夜、いつもとちがう空の下で｜リアクション

星ふる夜、いつもとちがう空の下で

●旅は道連れ
　下校時刻をむかえた寝子島高校。
　美術室での作業をひととおり終えて、旅鴉月詠はカバンを片手に校舎を出た。中には愛用のスケッチブックと画材、首から下げた水筒には熱いお茶をいれてある。
　肩にさげたもうひとつのカバンには折りたたみ三脚とデジカメが入っていて、このカメラで月詠は写真撮影にもチャレンジするつもりだ。
「流星群……か」
　創作活動にはもってこいの題材だ。天体写真についてはまだ知識が浅いが、トライしてみてはじめて技術は身につくものだと言い聞かせる。
　校門の近くまできて、月詠は二人の生徒が話し合っているところに出会った。
「先生の許可が得られてよかった。部の天体望遠鏡、慎重に扱わないと」
　天文部の部員、一条寺要。オールバックに固めた髪に鋭い目つきがややキツイ印象を与えるが、望遠鏡の入った箱をもつ手はおっかなびっくりだ。もう一人の部員、神薙焔はさして緊張した様子もみられない。機材の持ち運びになれているのだろう。
「それじゃ、撮影のおさらいね。流星が見えてからシャッターを切るんじゃ間に合わないわ。まずカメラを三脚で固定して、デジタルだと――」
　聞こえた会話内容に興味がわいて、月詠は声をかけてみる。
「君たちも写真を撮るのか？」
　二人が振りかえり、焔がそうよと答えた。
「たちもってことは、あなたも今晩出かけるのかしら？」
「そうだね。天体写真はあまり慣れてないけど」
　ぽん、と焔の手を打つ音。
「なら一緒に行かない？　撮り方は少しぐらいならレクチャーできるし、人数が多いほうが楽しめそうだわ」
　誘われて少しだけ悩む。撮影の助言はありがたいが、スケッチの時はある程度集中したい。
「途中まで、なら」
「決まりね。学校に長居はできないから、どこかで一休みしてから向かいましょう」

　しかし、出かけようとした焔を要はちょっと待ってくれと呼び止める。
「撮影場所って、高台にあるんだよな。これだけの機材、運べるだろうか」
　いわれてみれば。望遠鏡はある程度分解や組み立てができるとはいえ、他の機材もあわせれば結構な重さだ。桜台までは距離もあり、その途中で落としたりしないか不安だった。
「あたしのマウンテンバイク……は無理があるわね。早めに向かえばいいとしても、帰りの夜道が大変そう」
「何かお困りみたいだね」
　どうしたものかと悩んでいるところへ、八神修が声をかけてきた。彼も同じように機材を携えている。
「君たちも流星群目当てかい？」
「そんなところね。機材の持ち運びに少し困ってて」
　そういうことか。事情を把握した修はここでひとつの提案を持ちだした。
「俺のワゴンに乗せていったらどうかな。もうすぐ学校前に来るから、必要なら帰りも送ってくよ」
　俺のっていっても、運転手は星ヶ丘寮の人だけど。
「渡りに船、ね。お願いするわ！」

　迎えの車を待ちながら、星空や天体写真についてのトークが弾む。
「流星が複数写っている写真も撮れるのか？」
「可能よ。その場合は三脚でカメラを固定して……」
「このＴリングはどういう順序ではめるんだったか」
「それは――」
「この会社のカメラの場合はこちらの取り付けが先だね。神薙もくわしいんだな」
「まあね」
　流星群の飛来する前から、彼女たちを取り巻く空気は熱い。

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