星ふる夜、いつもとちがう空の下で｜リアクション

星ふる夜、いつもとちがう空の下で

●抜き足差し足、忍び足
　ハンモックでの休憩を楽しんでいるRVのキャンピングカーに、魔の手が忍び寄っていた。
　魔の手っていうほどでもないのだが、そういう言い方をしておこう。
（「流星群なんてどうでもいいです……いまの私のこの姿を見てもらえれば、それで！」）
　ひと知れず桜花寮を抜け出していた忍足春。
　彼女のいう『いまの私のこの姿』とは、具体的にはこんな感じであった。
　コート。これは問題ない。
　しかしその下には下着を一枚しかはかず、しかも上下対になっているはずの女性用の下着にしては一枚足りない。
　これ以上は申し上げないことにしておくが、ともかくアウトなのである。
　この姿で人前に現れられたらどういう騒ぎになるかは自明の理だった。
　ねめつけるような視線で品定めをしながら、春は標的を定める。
　至近距離でこの姿を見てもらえたら。責める言葉を浴びせてもらえたら最高です！
　そんな感じで『皆、私をみてー！』とコートをおっぴろげようとしたものの、なんだか裾が重たい。
　ていうか持ち上がらない。ポケットに石なんて入れたっけ。
　何かに引っかかっているのなら外さなければと、春は後ろをふりむいたものの……コートの裾は宙に浮かび、縫いつけられたように動きません。
　なんだかおかしい。そもそも物理的にありえない。
「どなたですか……私の野望を邪魔するのは」
　急に冷たい風がふいたかと思えば、近くの墓石がぼんやり光っているではありませんか。
　名前のはがれおちた墓石、あれ。これってもしかして、先ほど鬼久保美桜がじっと見ていたお墓？
　その場にいなかった春がそんなことを知るはずもありませんが、
　目の前の事象がうっすらと因果関係で結ばれていきます。
　まるで掴まれているようなコートの裾。
　夜の墓場、名前のないお墓……。
　ふたたび冷たい風が吹き、オイタはよしなさいとばかりに実体のない冷たいなにかがお尻をぺちぺち。
「ひゃわわわ、出たぁ～！？」
　裾をふんづけてつんのめり、コマ送りのように斜面を転げ落ちていく春。
　目撃者もほとんどなく、彼女の目論見は未達成に終わったのでした。