星ふる夜、いつもとちがう空の下で｜リアクション

星ふる夜、いつもとちがう空の下で

●もう、大丈夫
　打ち解けた飛鳥たちのほうから、楽しげな笑い声が響く。ここなら周囲に気がねなくおしゃべりができる。
「えー！　じゃあ、月子ちゃんもおばあちゃんと一緒に暮らしてるんだ？」
　飛鳥が家のことについて聞けば、月子は「そだよー☆」と手をひらひらさせて答えた。
「あとね、おじいちゃんも一緒！　夜中に出歩いたら心配かけるから、こっそり抜け出してきちゃった☆」
「あ、それわかるよ。小さな物音で目が覚めちゃうから、お布団ふまないようにって気をつかうよね」
「だよねー。榊原ちゃんがそういう話わかる人でよかった！」
　おたがい年配の家族がいるというだけで、こんなにも話が盛り上がる。日常の苦労話ができる相手はけっこう貴重だ。
「あ、いま流れたよ！」
「ほんとアルか！？」
　華菜子があわてて見上げてみても、もう流れ星の姿はない。３回ってむずかしい。
「次ながれた時のために早口言葉の練習しておくアル―。ラーメン作りがうまくなりますようにー、ラーメン作りがうまくなりますように……」
　ラーメン屋『猫島軒』の華菜子らしい、心の暖かくなる願いごとだ。
　そんな微笑ましい女の子たちの語らいを、畑生言嗣が茂みの中から観察していた。ボールペン型盗聴器のキャップをひねり、マイクを少女たちのほうへ向ける。会話を拾うつもりらしい。
「不審者といわれればそれまでだが、品のないことに使っては面白くなかろう。私はその者の面白味を録るのだよ」
　面白味と言いつつも、具体的には失言やはずかしいセリフのことである。
「っと、いかん。盗聴器が転がって……」
　茂みの中で見失っては大変だ。なんとか見つけだして拾おうと手を伸ばすうち、ガサガサと音を立ててしまった。
「ねえ、いまあっちで誰か見てなかった？」
　飛鳥が不審に思って茂みのあたりを見る。とくに人影はないが、さっきたしかに物音が聞こえたのだ。念のため探してみるが、やはり誰もいない。
「まさか……幽霊アルか！？」
　おびえる華菜子は嫌な想像をふりはらおうと、ぶんぶん首を振る。
「怖くない怖くない、怖くない……！」
　遠くまで聞こえそうな大声で早口３回、華菜子大パニック。流れ星が流れたのにも気がつかない。
　月子が大丈夫だよーとなだめ、背中をさすって落ち着かせる。
「墓場って怖いもんね。よかったら紅茶のむ？　落ちつくよ！」
「ありがとうアルー！」
　あたたかいダージリンの茶葉の香り。口にふくめばほんのり甘くて、元気がわいてくる。
「それにしても、キレイな星空アルねー！」
「うん。ほんと、きれいだね……」
　確かに、キレイだ。けれど、月子は星空にまつわる別の記憶を思い出していた。
　深夜の東京、人気のない公園で、昔よく星を見てたっけ。
　暗いのは平気なのに、夜の都会は時折どなり声が聞こえたりして落ち着かない。
　やっと静かになっても、今度は別のことで怖くて寂しくて……あのころは、よく一人で泣いていたっけ。
（「でも、寝子島にきたからもう大丈夫なんだ」）
　ここにはおじいちゃんとおばあちゃんがいる。学校に行けば友だちもいる。あんなに一人ぼっちで夜をすごすことも、もうないはずだから。
　これから月子は素敵な王子様を見つけて、幸せになるの。だからもう、大丈夫。
「月子ちゃん、つかれちゃった？　体、冷えてない？」
　先ほどから口数が少ないのを気にして、飛鳥が声をかけてくれた。
「お腹すいたアルか？　あとでみんなでラーメン食べるアル、きっとおいしいアルよー！」
　勘のよさとは縁遠く見える華菜子も、彼女なりに気づかってくれてるのが伝わってくる。
　けど、月子は大丈夫。過去は胸の内にしまいこんで、明るく笑ってみせる。
「ありがとう☆」
　こんなにやさしい人たちに囲まれてるから、大丈夫だよ。