そうだ、秋を探そう｜リアクション

そうだ、秋を探そう

【紅葉を探して】

　林檎古書店をあとにした浅山小淋はその足で公園に向かった。
（いい季節ですね）
　秋の風を肌で感じながら公園をあてもなく歩いてみる。
　すると、
（あら？　あれは千鳥さんでしょうか？）
　小淋は公園のベンチに見知った姿を発見した。
（眠っていらっしゃるのでしょうか？）
　なんとなく小淋はその寝顔を覗きこんでみた。

　　　＊　＊　＊

　その日、千鳥雅人は家で昼寝をしていた――はずだったのだが。
「……ふぇ？」
　はっと気づくとそこは外で、しかも、目の前に浅山小淋の顔があった。
「……こ、小淋ちゃん！？　はわわ……」
　雅人は驚きのあまりパニック状態に陥って妙な動きをしてしまう。
　そんな彼の様子に、小淋は思わずといったふうにクスリと微笑む。
『ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったんですけど』
「あ、いや。こっちこそ」
　スケッチブックに書かれた謝罪の言葉に、雅人は慌てて頭を振るう。
　悪いのは眠ったまま徘徊するという妙な癖のある自分の方で、彼女にまったく非はないのである。
（それにしても格好悪いところ見られちゃったなぁ……）
　恥ずかしさのあまり、雅人はまだ少し可笑しそうに微笑む小淋から目を逸らす。
（なんとか場を取り繕いたいけれど……）
　と、そこで雅人の目に飛び込んできたのは秋の風に揺れる梢の先から舞い散るほのかに色づいた紅葉の葉であった。
「……あ、あのさっ、よかったら紅葉とか見てまわらない？」
　雅人はほとんど勢いでそう口走っていた。
　それに、小淋はしばし驚いたように目を見開かせた後、
『はい』
　にこりと笑って、そう微笑みかえしてくれたのだった。

　とはいえ、雅人には何かプランがあったわけではなかった。
　女性を誘うときはしっかりと計画を練って、というのが彼の父の教えであった。
　だが、今回は状況が状況でそうもいかなかった。
「と、とりあえず街路をまわろっか？」
　雅人の言葉に、小淋はふんわり笑って頷く。
　それから雅人は言葉通りに小淋と一緒に街路をまわって歩いた。
（さっきからいい香りが漂ってたんだよねぇ）
　ほどなくして、雅人と小淋はその香りの正体に辿り着いた。
「キンモクセイ、だねぇ」
　雅人がほぅっと息を吐いて言う。
「この香り、なんだか『秋』って感じがするなぁ」
　小淋も頷き、スケッチブックを開いて、
『スケッチの練習もいいかもしれませんね』
　と、書き込み、同意した。
　それからさらに小淋はスケッチに言葉を書き続けていく。
『秋といえば、千鳥さんはどんな秋がお好きでしょうか？　私はもっぱら読書の秋になっちゃいそうですが……』
「うーん、そうだな……」
　雅人はその問いに少し腕を組んで考え込み、
「俺の秋は食欲の秋、かなぁ。食べるのも好きだし、食べてもらうのも好き！　けれど、一緒に本を読んだりするのもいいなぁ」
　と、答えた。
『ですね。こうして紅葉に囲まれて読む本もいいものだと思います』
　小淋が同意するように微笑む。
　その笑顔に雅人はふと夏に見た流れ星のことを思い出した。
　そういえばあのときも小淋と一緒に流れ星を見たのだった。
　夏は流れ星。秋は紅葉。
　それなら。
「ねぇ、小淋ちゃん。冬は何を見たいかな？」
　雅人の口から自然とそんな言葉が零れでた。
　それに、小淋は少しびっくりしたように目を瞬かせた後、

『じゃあその時までに考えておきますね』

　そうスケッチブックに書き込みをして、もう一度やわらかく微笑んだのであった。