そうだ、秋を探そう｜リアクション

そうだ、秋を探そう

【林檎と萩】

　その日、浅山小淋は散歩もかねて旧市街に足を運んでいた。
（寝子島も随分と秋めいてきましたね）
　小淋はあたりを見まわして、ふとそんなことを思う。
　道行く人々の装いの変化や、ときおり通りを吹き抜ける心地よい風に小淋は秋の訪れを感じずにはいられない。秋といえば食欲の秋。そして読書の秋。
（あ、そういえば）
　と、そこで、小淋は「あること」を思い出した。
（お取り置きをお願いしていた本があったんでした）
　ここのところ忙しくてすっかり失念していたのである。
　小淋は早速知人の津軽寂が経営する林檎古書店へと足を向けるのであった。

　　　＊　＊　＊

　さて、その林檎古書店でも、その日は早朝から確かな秋の訪れを感じさせるあるものが届いていた。
「まあ、とってもおいしそうな『りんご』と『なし』！」
　津軽寂は実家から送り届けられた秋の便りに思わず顔を綻ばせた。
　さっそく水で洗って一口食べてみる。
　甘く瑞々しい果実の味が口の中一杯に広がっていき、思わず「ん～♪」と幸せの声を漏らしてしまう。
　自分の朝食はこのフルーツで充分であるように思えた。
　それよりも、
「朝一番で届いたこの二つの秋、せっかくですからお菓子にして配ろうかしら」
　寂はどんなお菓子がいいかしら、とレシピをめくる。
　結果として、定番のアップルパイと梨のコンポートをこしらえることに決めた。
　できれば開店時間までに完成させて、お客様に味わってもらいたい。
　いそいそと手際よく寂は料理の支度を始めた。

このページにイラストを設定する