そうだ、秋を探そう｜リアクション

そうだ、秋を探そう

【秋会事始（あきかいことはじめ）】

　それは去る数日前のこと。

「あのね！　きょう、せんせいから『秋さがし』のしゅくだいが出たの！」

　寝子島小学校の運動場で、小島海美がドッジボール仲間で先輩の双葉由貴と椎名あさひにそう言ったのが、その全ての始まりだった。
「「秋さがし？」」
　あさひと由貴の声が重なった。
　海美が言うところには、その日、社会（せいかつ）科の授業で、担任の先生から秋を感じさせる何かを見つけてきなさいという宿題が出されたらしい。
「ふたりとも、秋がどこにあるか、しりませんかっ？」
　海美は子供らしく元気一杯に二人の小さな先輩に問いかける。
　今回の宿題は身近な先輩や大人たちの力を借りても良いということになっていた。
　むしろ、困ったときに身近な誰かに素直に頼る――そういう当たり前のようで、意外と難しい社会の基本を学ぶことこそが、そのホームワークの真の狙いなのかもしれない。
「秋かぁー」「秋ねぇ～」
　コートを右へ左へ飛び交うドッジボールをなんとかよけまわりながら、由貴とあさひは互い違いの方向に首を捻る。
「やっぱり自然の中で探すのが一番じゃないか？　九夜山とか」
「だねぇ～。おべんともって景色のいいところでみんなで食べたらきっと楽しいよねぇ～」
　由貴がふと思いついたように言い、あさひが何気なく継いだその一言に、海美は大きな黒の瞳をきらきらと輝かせた。

「よし。じゃあ、みんなで秋さがししよう！」

「「え？」」
　再び由貴とあさひの声が重なりあったときにはすでに海美の顔には「けっていじこうです！」の文字がありありと浮かんでいたのであった。

　　　＊　＊　＊

　さらにその頃、奇しくも時を同じくして全く別の場所で、秋の九夜山散策を計画する者達がいた。
「真央、美咲紀、今度の日曜日に九夜山にピクニックに行かないか？」
「「ピクニック？」」
　寝子島高校新聞部部長の八神修と、同じく新聞部の二人の部員――後木真央と椿美咲紀である。
「ああ、秋の味覚が楽しめるいい場所を知ってるんだ。みんなで行かないか？」
　修は九夜山で体育祭に向けた自主トレをしていたときに、アケビやサルナシといった秋の実りに満ちた場所をいくつか発見していた。それをせっかくだから友人達にも紹介したいと思ったのだった。
「もちろんなのだ！　真央ちゃんも是非参加したいのだ～！」
「いいですねー。ちょうど紅葉も色づきはじめた頃ですし」
　真央と美咲紀は二つ返事で修の提案に応じた。
　そして、その日、早速自宅でピクニックの準備にとりかかっていた彼は、

『もしもし！　修おにいちゃんも、いっしょに秋さがししませんか！』
「え？」

　小島海美から連絡を受けて、彼女らと行動をともにすることになった。

　　　＊　＊　＊

　かくして、ここに『秋を探そうの会』略して『秋会』が結成されることなったのであった。

　そして――。