本日限り！　なりきりチャンバラ劇団公演です｜リアクション

本日限り！　なりきりチャンバラ劇団公演です

【ニ幕】　ある高級料亭の奥座敷　（悪代官、腹笑屋）

　四方を漆黒の襖と障子で閉ざされたひと間に、行燈の灯りが一つ。
　外を駆ける東風が、時折、細格子と二人の影を不穏に揺らす。

「最近、辻斬りのお陰で、余計なネズミも引き寄せたようで」
　腹笑屋は酒より茶が甘露だと、旨そうに茶を啜る。
　辻斬り事件が世間の隠れ蓑になり、先日も裏商売の取引が滞りなく完了したのだが。
「例えば何じゃ」
　悪代官・冠部も茶を啜る。
「殺された者の身内が、噂に聞く天誅人とやらに仇討を依頼したそうです」
　相変わらずの情報網だと、代官は腹笑屋の涼しい顔を見て、目を細めた。
「辻斬り……狩野兵臓（かのう・へいぞう）か。昔、殿の剣術指南役に召し抱えられていたが、ある奉納試合で、儂が裏で糸を引いた殿暗殺疑惑の濡れ衣を着せ、取り潰してやった狩野一門の嫡男だった、か。苦渋の年月が記憶を改竄し、殿に逆しまな怨みつらみ抱くは好都合と、利用してやったが……」
　修羅の一刀。
　あわよくば、町を放蕩する殿と遭遇し葬り去ってくれたら、万事めでたしと、町に解き放ってはみたものの。
「まあ、何もかも、こちらの計算通りにはいくまい」
「お代官様も、お人が悪い」

　ところで。
　代官は扇で口元を隠し、ぐぐっと腹笑屋の耳に顔を寄せた。
「胴三郎の娘、千代は如何致しておるかな？」
「日々、父親の仕官を願い、殿の悪い噂を妄信しております。こちらが甘い言葉で誘えば、いともたやすく手駒の一つになりましょう」
「ふ、ふ、ふ。千代は年頃にて、可愛いのう」
「冠部様。鼻の下が伸びきってございます」
「ごほ」

「殿が猫太郎と名を語り、めし屋に入り浸っている事は調べてございます。孤高に町を探るとは実に危険でありましょうに」
「フッ。護衛一人も居らぬとは。そういう儂は、何十人もの手下を従えておるがの」
　扇ぱたぱたぱたー。
「今日、その猫太郎侍に罠を仕掛けました」
「何と！」
　身を乗り出す代官。
「千代を囮に、猫太郎侍を屋敷へ誘き寄せ、まんまと袋の鼠にて亡き者にする計画です」

　真（まこと）と嘘（いつわり）を織り交ぜ、誘い出したるは、一国に立つ黄金の鼠。
「薄っぺらな正義感に溢れた殿は、必ずや千代を助けに来る。間違いございません」

　最後に。
「此方を。黄金最中でございます」
　いつものように裏商売も御贔屓にと、箱を一つ献上した。中は最中の底敷きに大判小判。
　代官がニヤリと、扇をひらりと裏返して見せるは【悪】一文字。
「腹笑屋。お主も悪よのぅ」
「いえいえ。お代官様には敵いませぬ」
　は、は、は、は。
　ふ、ふ、ふ、ふ。
「うむうむ。これぞ、悪の様式美という物よのう」

　万事、良きに取り計ろうぞ。