本日限り！　なりきりチャンバラ劇団公演です｜リアクション

本日限り！　なりきりチャンバラ劇団公演です

【一幕】　　めし屋　⇒　路地木戸　（小町、猫太郎侍、新米岡っ引き、千代、お鶴、源の字）

　賑わう表通りの一角にある一膳めし屋。
「いらっしゃい！　本日のおすすめはサンマさん丼だよ」
　看板娘の小町が、今日も陽気な声を響かせる。
　黒地に小紋の着物に前掛け姿。黒い結髪に真っ赤な椿の簪がよく映え、愛らしい。
「いよぅ！　小町ちゃん、今日もべっぴんさんだねぇ！」
　町の男衆がまた一人立ち寄り、サンマさん丼を注文した。
「うちの名物ですよ！　どうぞごゆっくり！　お茶もどうぞー」
　店内には、既に先客あり。
「ここの飯は相変わらず美味しいよ」
「有難う！　猫太郎さん」
　浅葱の地に白抜きの幾何学文様を刻んだ着流し、紺の角帯に差す刀を座席の脇に置き、すっかり常連となっている猫太郎侍。
　今日も今日とて、にゃん戸の町の風情を楽しみながら入り浸っていた。

　そこへ、新米岡っ引きが「あわわわ！　たた大変ですよぅ。昨晩また辻斬りが！」と、ぎくしゃくと駆けこんで来る。
　もう知ってらぁと、店の客は笑った。
　なんせ毎日毎日、辻斬り話で持ち切りだ。
「せ、拙者……つ…り…あたた舌っ舌噛んだぁ！」
「『拙者』だぁ？　ちょっと落ち着けよ。おめぇ」
　どもるわ、コケるわ、へっぴり腰の新米に対して、先日殺された岡っ引きの旦那に比べ頼りねぇと皆が揶揄する。
「はは、はひ。後任が僕ですみません……」と低腰。
　世間じゃ、殿様が放蕩三昧で財政を傾け、不逞の輩が町に流れて来たって話。
「辻斬りなんざ、まさにその筆頭だろうよ。物騒になったモンだねぇ」
「あと、この町一番の不逞の輩と云やぁ……」
　──　悪徳商人・腹笑屋（はらしょーや）。
　代官に抜け荷を見逃して貰い、商売敵を出し抜き、ぼろ儲けだともっぱらの噂と、客達は声を落とす。
　ごろつき集め、時には町人に高利吹っかけと迷惑かけ放題。
　白か黒かと問われりゃ、限りなく真っ黒に近けぇ灰色。
「辻斬りだって、実は腹笑屋が集めたごろつきの一人なんじゃねぇかって噂よ」
「ぇええー？」
　新米が青ざめて、素っ頓狂な叫び声をあげる。
「ひひっ。噂だ、噂」
　客の一人が意味ありげに笑った。

　そこへ孝行娘の千代が遠慮がちに、一合の酒を貰いに店に顔を出した。
　いつも千代を心配する小町。
「はい。今日の分。また何かあったら遠慮せずに云ってね！」
「うん。有難う……小町ちゃん」
　目を伏せ気味に会釈して帰る千代の後ろ姿を、猫太郎と他の客が見送る。
「綺麗な娘さんだ」
「しかも、ありゃ乳がでけぇ」
　がこーんと、盆が客の頭に落ちた。
「ぉわたぁっ！　いってェ！　痛った－っ」
「あら、嫌だ。お客さんの頭に大きな蠅が！」
「いやいやいやっ小町ちゃん、そんな訳がっ…………あ、はい。すみませんです。確かに蠅が居ました」
　小町が再び盆を振りかぶった所で、客は首をすくめて謝った。
「小町さん。今の娘さんは？」
「猫太郎さんは初めて見る？　裏長屋に住む傘屋の千代ちゃんだよ」
　千代の父は、元下級武士の胴三郎。
　真面目だけが取り柄で、今や父娘二人、食うも困る浪人暮らしを強いられているらしい。
「おとっつぁん想いのいい子なんだけど、とても不幸で……」
「大変なんだね」
　その時、猫太郎の視界に、奇妙な二人の客が席を立ち、店を出て行く姿が入った。
　白い被布姿の町医者か助手風の女と、立派な顎、帯に包丁を挟んだ渡世人風の大男。
　すれ違いざま、女とちらりと視線が合ったが、石のように感情もない眼をしていた。

　人気が切れた路地木戸の隅。
　女は連れに声を押し殺して囁く。
「源の字」
「おぅ。何や、お鶴。サンマ丼は旨かったし、情報も入って良かったのう」
「先程のめし屋に、殿が居た」
「とのかー。とがしとのがしそれがしナンチャッテ…ん？……なんやて？」
「店の入口に着流しの侍が居ただろう。形（なり）は多少変えているが、尾猫猫之進。当人だ」
「な、なな！　わし、よぅ顔を見とくんやったなぁ！　男前やった？」
「馬鹿お云いでないよ。こちらの正体に感づかれるじゃないか」
　己達が必殺天誅人──「お鶴」と「流れ坂・源の字」である事を。
　せ、せやな……と、源の字は背を丸めて、しょんぼりする。
「厄介な人間が近くに居たもんだ」

　……稼業の邪魔にならぬと良いが……。

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