もれいびになれたなら｜リアクション

もれいびになれたなら

●それぞれの意見と思考

「君達は、ろっこん、というものを知っているかい？」
「不思議な力、と聞いたことがあります」
　ゆっくりとした食事が終わり、お茶を飲んでいた蓮が答える。
「不思議な力！　魔法とか超能力みたいなものなのですよ！」
　興味津々な目で話に乗る玄。
　僕の話を聞いてください、と十字は自分の話を。
「僕は、巨人症だった親友を腫瘍で亡くしている。最初に結婚した架神さんだ」
「そんな病気あるです？」
　驚く玄に、蓮は「本当にある病気です」と一言。
「信じられないですよ！」
「森さんが言うように、実在する病気だよ。今の僕の姓は、彼女のものなんだよ。僕が若い頃は、同性愛への差別が強くてね」
　十字の両親はキリスト教根本主義ということもあり、同性愛に厳しかった。
「そんな時代でも、架神さんは偏見なく僕に接してくれたよ。架神さんは豪放磊落な気性でね、海外旅行で拾った孤児を養子にしたりもした」
　架神さんが死んだ時、十字はとても悲しかった。
「人はいずれ死ぬと理性では理解しているつもりだが、それでも、患者が死ぬと医療の敗北を感じてしまう。だから、もし好きな能力が得られるなら……僕は患者を延命させる能力が欲しい」
　それに対し、蓮はこう意見を述べる。
「私は、人は特殊な能力に頼らなくても問題に対処できると信じています。だから、私はろっこんを欲しいと思いません」
　宝くじに高額当選して身を滅ぼすことがあるように、見せかけの力は、人にとって害になる。
　お金で愛情深さや責任感は買えない。ろっこんも同じだと思うと、面と向かい十字に言う。
「森さんは、お金が好きではないようだね。大金は悩みの種かもしれないが、お金があれば、ベビーシッターを雇ったり、食器洗い乾燥機を買えたり、家事の負担を減らせるだろう？」
「そうですよ！　楽になるですよ！　お金と上手く付き合えば問題ないですよ！」
　十字と玄の意見に、蓮は少し戸惑った。
「おふたりの意見はご尤もですが、自分が望んだ能力を簡単に得られるのであれば、その能力は人格形成に悪影響を与えるような気がします」
　少し俯いた後、顔を上げてこう言った。
「ただ、自身のろっこんで苦しんでいるもれいびがいて、その方からろっこんを譲っていただけるのであれば、私は喜んで受け取りますね」
「……それがいいだろうね」

　重苦しい雰囲気を壊すかのように、玄は自分のことを話し出した。
「僕、いっぱい失恋したですよ！　でも好きな人、ろっこんで洗脳して付き合わせたいと思わないですよ！」
　彼が好きになった人はたいてい立派な人だったので、相手に相応しいくらい立派な人になりたいと思う。
「好きな人が高所恐怖症なのに観覧車デートに連れて行ったことがあるですよ！　後で謝って許してもらったけど、好きな人が嫌がること、したくないですよ！」
　その一件に関しては、好きな人の誕生会にいた蓮も知っている。
（北さんは優しい人ですから、好きな人の気持ちを察することができるようになりたいのですね）
　元気良く振る舞っているが、実は純真な玄だった。
「僕がお笑いやってるの、失恋しても生きられるようにするためですよ！　でも、今の好きな人に振られたら生きてないかもですよ！」
「北さんは、僕と違って強いな。見習わないといけないね」
「架神先生も強くなれるですよ！」
「おっと、そろそろ診察室に戻らないと。若いおふたりの意見を聞けて良かったよ。会計は私が」

　レシートを手にし立ち去る十字が、頼れる父親のように見えた気がした蓮と玄だった。

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