もれいびになれたなら｜リアクション

もれいびになれたなら

●証明してほしいですよ！

「僕、健常ですよ！　病院でちゃんと診察してもらって、先生に『正常』と診断書に書いてもらうですよ！」
　機知に富む話術を医師に披露するですよ！　と意気込みながら北玄は受付を済ませた。
（普段の行動が目に余るとかで、勤務先に精神科の受診を勧められたですよ！　すごくすごく心外ですよ！）
　自分が正常なことを医師に証明してもらうですよ！　と拳を握る玄だが、彼の行動は超小柄な外見でどうやったらこんなことが……と思われる型破りなものが多い。
　木天蓼市の自宅から寝子島大橋を渡り、星ヶ丘まで競歩通勤という体力はともかく、同じボケを繰り返しボケ倒す際に特技のパルクールが活かされているのかオーバーなリアクションになることも。
　これらの行動は職場内外問わずなので、勤務先が心配するのは無理もないことだろう。
　自分のことを心配してくれる上司の気遣いは嬉しいが、どこかおかしいと思われているようで気分がいいものではない。
　だからこそ、医師に正常だと認めさせる！　健康と言われたい！　という気持ちが強い。

　問診票を記入したり、順番待ちしたりと看護師に名前を呼ばれるまで１時間くらいかかった。
「北玄さん、１番の診察室にお入りください」
　看護師に名前を呼ばれた玄は、案内された診察室へ。
「北玄さん、ですね。あなたの診察を担当する精神科医の架神です、よろしくお願いします」
「よろしくお願いしますですよ！」
　架神十字を見て、信頼できそうな人で良かったと安心する。
「僕の話を聞いてほしいですよ！　会社でこういうこと言われたですよ！」
　早口で不満を捲し立てる玄の会話を十字は微笑みながら耳を傾け、カルテに書き込んでいる。
「僕は健常ですよ！」
　話を聞いたところ、玄が主張するように体力が有り余っているように思えると十字は判断した。
「それだけお元気でしたら問題ありませんね。あなた自身が仰っているように、心身共に良好ですよ。私が保証しますからご安心ください」
　十字は診断書に『異常なし』と書き、健康面、精神面は極めて良好と書き足す。
「ありがとうですよ！　僕、すごく嬉しいですよ！」
　どうですよ！　と胸を張る玄。
　それを見て「元気の良い方です」と目を細めた十字は、息子もこうなってほしいと願う。

　玄が診察を終え、会計待ちをしている頃。
　森蓮は私立寝子島高等学校を最高の学校にする会、通称「寝子最高の会」が行う慈善活動として寝子島総合病院に入院している末期患者のお見舞い中。
「おかげんはいかがですか？」
「今日はいいほうだよ。お見舞いに来てくれてありがとう」
　話している老婆はそう答えるが、余命は残り少ない。それを感じさせないのは、死を受け入れたからだろう。
（あの人は、どうしているでしょう）
　蓮はお見舞いの最中、帰省した時に昔話を聞かせてくれたある人物のことを思い出した。

　昼食のため、寝子最高の会の活動は一旦休憩。
　食堂で食事を摂ろうとした蓮だったが、満席だったのでどうしようかと悩んだ。
「あ、森さんですよ！　森さん、ここ空いているですよ！　一緒にお昼食べるですよ！」
　玄が声をかけた方向を見ると、向かい合って座っている医師が。
　医師の体験談が聞けると思った蓮は「では、お言葉に甘えて」と相席することに。

　各々注文したメニューが運ばれてきたので昼食を食べ始めたまではいいが、会話がない。
（困ったな……）
　コーヒーを飲んでいる十字は気まずい雰囲気をどうにかしようと考える。
　蓮は良く噛んでサラダを食べているし、玄はデザートを何にしようか悩んでいる。
　静かな雰囲気は味気ないので、十字は息子の学校で噂になっていることを話すことに。

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