花愛で狐と秋の花｜リアクション

花愛で狐と秋の花

◆またいつか逢えるように
　赫。鮮やかで怖いくらい鮮明ないろ。瑞樹が辿り着いた場所とはまた違う場所。
　花風冴来が追いかけてきた狐はただその場所に佇んでいた。
　仲間と群れることもなく、たった一匹で。
　冴来はその狐が何を亡くしたのかは知らない。
　それでも。
（きっと、大切な存在を亡くしたのね）
　悲しそうで、寂しそうで。
　言葉もなく眼差しだけがあるその場所はより、悲しみが狐と共に佇んでいた。
「ねぇ、この花にはね――」
　また逢える日を楽しみに、そんな花言葉が有るのだとそっと降らせる。
　無くしてしまったら終わりではなくて、この花に乗せられる願いもあるのだと。
「どうか悲しまないで、いつかまた必ず会えるから」
　それは狐たちへだったのか、それとも自身も含んでいたものだったのか。
　冴来はそっと眼を閉じる。
　この子の想いが彼岸の先まで届きます様に。
　ここで大切な人達を想う人達の心が癒されます様に。
　狐の傍でそっと祈る、優しい祈りを。

　誰かの想いが、傍にいるこの子の想いが届けばいい、そう思った後に辿り着いたのは自身だ。
（私もいつか、）
　亡くした人たちに会えるだろうか。
　自身のことを振り返れば、きっと願う資格など無いのだろうけれど。
　でもその願いが罪だとしても。寂しさが罰なのだとしても。
　再会を求めずに居られない気持ち。
　どうか許してと、懺悔のように、音にもならず心で落とされていく想い、と願い。
　大切だった。
　大好きだった。
　あの時に、気づけていたなら、きっと今は違っていた。
　こんな後悔に苛まれていることも、きっと……なかった筈で。
　けれど筈、でしかない。
　愚かで、惨めで、滑稽で。
　とても酷い子供だった。
　そう振り返られる「私」はまだ子供だろうか。
　それとも少しは成長したのだろうか。
　成長があるのなら、出来ていると良いのだけれど、そんな心で思うことと。
　過去が変わることがない。
　けれどこれからは変わっていける。
　行ける筈で。
　同じ筈でもこれは、きっと後悔を伴う後ろではなく、前にあるもので。
　直ぐに変わるわけでもない。進めるわけでもないのだろう。
　それでも。
「……悲しい時には甘いもの。ねぇ、狐さん良ければ貴方もお菓子を如何？」
　そっと差し出されたのは、可愛らしい和菓子。
　ひとりよりも、一人と一匹で。
　少しだけ寂しさと悲しみを分けあって。

　――ねぇ、一緒に食べましょう？

　いつか会える日を想いながら。