天使のたまご｜リアクション

天使のたまご

●同行侵入

　修は平蔵の家の裏口にいる。
　ドアノブに手をかけ息を止め、しばしの間、眼を閉じて精神を集中させた。
　小さな音がしてその後、ドアノブがゴトリとセメントの上に落ちる。修はろっこん、『分解』を使ったのだ。
　ドアの向う側でも、同じ音がする。
　修は携行していた簡易な工具で、素早く元通りにドアノブをつけ直した。
「さて……」
　修が建物の中に入ろうとしたその時、
「あのー」
　小声で声をかけられる。
　修は、ゆっくり深呼吸して気を整えた。
「何かな？」
　修が振り向くと、そこに居たのは篠原翠響である。
こんにちはー、と挨拶しながら弾けるような笑顔で、ヒラヒラ手を振った。
「中に忍びこもうとしてるのよね？　鍵も開いたみたいだし……。良かったら、一緒に行かない？　多分目的も同じだと思うわ」
（目的……）
　修には、現時点で翠響の目的は測りかねる。
　が、おそらく平蔵の花火を始末しに来たのだろうと推測した。
　断って騒がれでもしたら台無しになる、という恐れある。
「いいよ」
　短く答えて、修は住居の中に侵入した。
　足音をさせないように注意して建物内を進む。
（音は……大丈夫そうだな）
　修は翠響の事を気にしつつ探索を進めていた。
　翠響は翠響で別の場所をうろついているようだ。
　音は注意しているようなので、修は自分の用事を進めることにする。
　裏口は、入ったらすぐに台所だった。
　忍び足でさらに奥に進む……。