天使のたまご｜リアクション

天使のたまご

●決戦前日Ⅰ

　後木真央は朝から、旧市街の町役場に来ていた。
「ねーねー？　どうなのだー？　まだわかんないのだー？」
「急に言われてもねえ……」
　ブツブツ言いながらも、目の前の男性は色々と調べてくれている。
　真央は役場の広報課に、今後寝子島で開催する花火大会について聞きにきたのだ。
「寝子島でやる花火大会は、夏だけかなー」
「ネットで調べたから、それはもう知ってるのだー！　もっとこじんまりしたやつとかないのだ？」
「色々問い合わせてみたけど、申請が出てるのは今のとこないね」
　職員の男性は、軽く肩を竦めて見せる。
「むぅ……そうなのだ……」
　明らかに気落ちした様子の真央に同情したのか職員は、
「よくわかんないけど、花火大会の主催者さんに連絡取りたいんでしょ？　夏の大会なら主催者さん知ってるから、連絡先教えてあげるよ」
と、言ってくれた。
「ありがとなのだ！」
　真央は、喜色満面で役場のロビーを飛び跳ねる。職員は人の良さそうな顔でその様子を見ていた。
（後は主催者さんに連絡して、平蔵さんの花火を買い取って貰えるか、確認、なのだ！）

「あっ、はい……。いえいえこちらこそ。どうもありがとうございました」
　音羽紫鶴は丁寧に言って、通話を切る。
　箱崎久子のアパートの大家に、久子の親戚のフリをして電話をかけていたのだ。
「まあ、こんなものかな」
　久子の最近の様子でも分かれば、と思ってやったことである。
　元々気難しい性格が、最近益々虫の居所が悪いらしく、態度がトゲトゲしい、ということだった。
「じゃ、次は噂の別居中の奥さんにアポをとってみるかな」
　久子の連絡先は、電話帳で分かっている。
　紫鶴は、再び電話の呼び出し音を聞いた。

　ヒヒヒヒヒヒヒヒ、と猫鳴館の一室に奇妙な笑い声が響く。
　老朽化の激しい部屋の中に、骨削瓢が片膝をついて座っていた。
　瓢の前には多数のロケット花火に、どこから手に入れたのか、太く巻いた導火線。
　それに、弓道部からくすねてきた弓矢がある。
　弓矢には、もう少し細工を加えるようだ。
「赤子が爆発四散する様って大分ショッキングだよねぇ……。せっかく作ったお子さんなら綺麗に花開かせたほうが本望でしょうよ」
　もう一度、自らの道具・得物を眺めながら瓢は、キキキキ、とまた愉悦を漏らす。
「コトが本格的に動き出すのは……明日ってとこかねぇ」

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