天使のたまご｜リアクション

天使のたまご

●終息に向かって

　瓢はボサボサ髪を揺らしながら、平蔵宅の近くをウロウロしている。
（ロケット花火は失敗かねえ）
　瓢は前もって平蔵の家周辺のあちこちに、ロケット花火を仕掛けていた。
　平蔵が花火玉を持って外出する事があれば、これを打ち込み誘爆させる気でいたのである。
　が、そもそも平蔵は花火を持って外出する事がなかった。
　近所の人間に花火を見せる時も、ほとんど玄関先か、庭までしか出てこない。
　今、庭先で何やら平蔵を入れて四、五人で話している。人数が多いと当たりにくいので、出来るだけ人の少ない時に事を起こしたいのだが、そうも言っていられない。
　痺れを切らし、ロケット花火を打ち込んでやろう、と瓢は考えたのだが……。
「ふうむ……妙な話だよぃ」
　確認してみると、平蔵宅近くに仕掛けていた花火が全て、綺麗さっぱり無くなっていた。
　関係あるのかどうか瓢にはよくわからないが、何故か今日は蝶がひらひら飛んでいるのをよく見かける。
「……邪魔が入ったかねえ」
　まあそれならそれでよい。瓢には文字通り、二の矢、三の矢の準備があるのだ。
　瓢は、上手く弓で平蔵の花火を狙えるポジションを探して、またフラフラと歩き始めた。

「……こうしていると、なんとなく昔を思い出すよ。僕の妻が息子を産んですぐに死んだ時、泣きながら子守唄を歌ってずっと息子を抱きしめてたんだっけ。僕がずっと側にいなきゃって」
　蓮太郎は、相変わらず花火玉を抱いてあやしている。
　平蔵のろっこんは持続時間があまり長くないらしく、最初のウチは切れるたびにかけ直していたが、もう面倒になったらしく、今は花火のままであった。
「そ、そうか。おぬしも難儀な人生を歩んできたんじゃなあ……」
　平蔵は適当に相槌を打っているが、若干疲れてきている。
「ねえ、平蔵さん。ボクは平蔵さんの望みを知りたいんだ。人に言いづらい事かもしれないけど話してくれれば、ボク達も協力して少しでもいい方向に持っていけるかもしれないよ？」
　と、親身になって話しかける円に続いて湊面も、
「きっと何か思い入れとか…事情があるんだよね？　ウチでよければ、おじいさんのお話聴くから……ううん、聞かせてほしい……聞かせてください！」
　熱の入った説得を続けていた。
　円も湊面も、蓮太郎の事は放っているカタチになっている。
『ちょっと！　キミも何か言いなよ！』
　黙っている夏朝に対し、円が囁きかけた。
「うーん……」
　夏朝としては、もう平蔵が自覚を持って花火を赤ん坊に見せている事が分かったので、説得に移行してもいいのだが、もう一つ煮え切らないものがあった。
（久子さんの家に向かった組が、何か良い情報を持ってくるかもしれないもんね）
　普通の説得では埒が開かないのではないか？　とぼんやりながら思っていたのだ。
「おじいさんの大切な花子ちゃんには、手を出さないって約束するから……ん？」
（あ、そういえば……）
　湊面は、説得しながら小路がいなくなっている事に気付いた。