雨上がりの屋上｜リアクション

雨上がりの屋上

　剣術家の御剣刀は、自身の腕を刀に見立てて振るう。
　しかし勝手が悪い。間合いもスピードも、普段の剣術とは比べものにならない。
　対する七峯亨は、近接格闘術クラヴ・マガで受けて立つ。
　体の角度をわずかにずらし、刀の腕をサッと掴むと、ボディに膝を入れる。
「うっ」
　と刀が声を漏らすが、構わず連打。
　が、その攻撃は刀自身の足で防御。
　と同時に、掴まれた腕を軸に体をまわして亨を倒しにかかる。
「げっ」
　バランス崩す亨。
　刀の腕を放し、その屈強な体で持ち堪える。
　再び間を取り、息を整えるふたり。
　お互いにろっこんを使わなかったのは、暗黙の了解だろう。
　相手の力量を体で確かめたふたりは、同じことを考えていた。
　次の攻撃は、ろっこんで来る。
　刀が身構えたそのとき、亨は既に頭の中で「縮」と念じていた。
　あっという間に縮んでいく亨の体。
　刀は一歩を踏みだし、頭の中で撃鉄を落として加速！
　しかし、速さだけでは亨を捉えきれない。
　亨はフェンスを蹴って跳び、刀の顔面目指して一気に能力を解除。
　元の大きな体に戻りながら拳をぶち込む――
　が、
「そこか？」
　加速した刀の手刀がとんでくる。
「速ぇな」
　一発受け、慌てて縮む亨。
　しかし、地面に叩きつけられる。
「ルール無用だよな」
　と刀はそのまま踏みつける。
　が、そこで再び亨は解除。大きくなることで刀の足を持ち上げてバランスを崩す。
「チッ」
　刀は小さく舌打ち。
　捉え損ねたか、ならばどうする？　と考えを巡らす。
　亨もまた考えていた。刀の速さに対抗するには、どうすりゃいい？
　再び虫のように小さな体になると、フェンスや塔屋の壁を蹴って、あっちへこっちへ。
「鬼さんこちらぁ！」
　時には刀の肩や頭をも踏み台にして、その周囲を飛び回る。
　ついに亨を見失う刀。
　亨は刀の背後をとったところで能力を解除。一気に元の大きな体に戻って、刀の首に手を回す――
「捉えた！」
　と思ったのは、両者だった。
　瞬間、刀が加速。
　精神が加速することで世界は凍てついたかのようにゆっくりと動く。刀の首を決めようとする亨の腕は、刀にとっては好都合だった。
　素速く体を回転させると、亨に対峙する。
　亨の意識はまだ、自分が刀と向き合っていることに気がついていない。
「お前を俺の世界から置いて行く！」
　刀の拳のラッシュが亨の強靱な体を何度も突いてから、亨は事の次第に気がつくのだった。
「ぐはぁあああ」
　亨は倒れ、ここで勝負あり。
「完敗、まだまだか」
「稽古だろ？　勝ち負けはないよ」
「付き合ってくれてありがとよ」
「こっちこそありがとよ。いい修業になった」
　刀は亨の手を掴むと、体を引き起こす。
「さっきからカラスが鳴いてるぜ」
「ああ、帰ろうか」
　こうして、つわものどもは屋上を後にしていった。

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