黒きミサ―中二病を告解せよ―｜リアクション

黒きミサ―中二病を告解せよ―

「皆さん、中二病とは、『悪』なのでしょうか？」

　また一人、前に進み出た。
　ネームプレートは「プロフェッサーM」。
　声からすると女性のようだ。
　白衣に眼鏡（何故か委員長と呼びたくなる）という出で立ちである。

「忘れ去るべき物なのでしょうか？　私が今回のミサに参加したのは、その点を皆さんに考えて欲しかったからです」

　そういいながら、持ってきていたプロジェクターを起動した。
　その様子を御剣刀はじっと見ていた。

（この集会が神魂や怪異が起こす事件の前触れかもしれない、俺のフツウを侵されるのはゴメンだ。怪しい動きをしたら容赦しない）

　と、竹刀袋に入れた木刀をいつでも抜けるようにしている。
　今のところ、そんな危険性はないようだが。

「私が作成した、一人の男の観察記録です。名前はKくん、仮に、刀くんとします」

　おい、と刀は心のなかでつっこみを入れた。
　見れば、変なノリの格好をして語り出していたのはよく知る知人である。

（アレ？　さく……じゃなかったプロフェッサーMのやつ、この集会の趣旨を知ってるのか？　ん？　俺？　……あっ、あれこの前のやつじゃん）

　スクリーンには刀の姿が映し出されていた。

「彼が御つる……アッ、イエ、刀くん自称普通の男子高校生です」

　VTRが進む。

『学校の課題で友人観察のインタビュービデオ作ってんの。協力してくれる？』
『ああ、いいけど』

　どうもプロフェッサーMが刀に依頼したらしい。

『信念を教えてください』
『信念……俺には辿り着きたい場所がある、そしてそこから更に先へ進む。その道程で独りになったとしても己の道だ、進むのは俺独りで十分だろう？　俺は俺の剣の道を極めるんだ……必ず』
『刀くん、テロリストがね、この高校に入ってきたらどうする？』
『テロリストが？　以前の寝子電スタジアムで襲われたけれども俺のフツウを侵すならば容赦しない、敵は全て斬る、当然だろう？』
　
　VTRの中の刀はそこで一息つくと再び語りだす。
　その表情は真剣そのもので、一点の曇りもない。

『まあ、そういう事件は俺が剣の腕を磨くための良い機会だ、起きろとは言わないけれども起きたら歓迎するよ。あの凍てついた世界で動けるのは俺だけだ、世界が再び動く時には全て終わってる』

　VTRはそこで終わっていた。

「はっきりいって彼は痛くて恥ずかしいですが、ボクにはこの堂々と自分の理念を恥ずかしがらずに言える彼は輝いて見えます」

　うんうんと頷く者が多数いた。

「考えた事、感じた事は決して悪ではないと思います。ボクは、それを捨てる事が勿体無いと思ってしまうのです。共に前に進む事も一つの道なんじゃないかなって」
「そうだ、そうだー！」
「中二病、バンザイ！」

　ミサは異様な熱気に包まれた。

（あれ？　何か俺イタイ奴扱いされてない？）

　ミサの興奮についていけない刀は、得意げな様子のプロフェッサーMに腹が立ってきた。

「さく……じゃなかったプロフェッサーM！　お前だってお面被ってワリタリーヌとか名乗って男の股間攻撃してんだろうが！」
「いやいや！　ワリタリーヌさんは中二じゃないし。男の子の無差別な性欲を粉砕する事は人類に必要な事だよ？　同列で語らないでくーだーさーいー。チャイコフスキーのくるみ割り人形は
そういう事でしょ！」
「違うよ！？　ロシアの大作曲家に謝れ！」
「うるさい割るぞ」
「ひっ！」

　一度割られている刀は、思わず内股になった。

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