ねこでんのある風景｜リアクション

ねこでんのある風景

＝＝寝子島駅の迷子＝＝

「さあて寝子島駅でお仕事だ。きょう君、一緒にがんばろうね！」
　寝子島駅の駅員、十和田六郎は同僚の小野寺恭介に明るく声をかけました。
　島の玄関口とも言えるこの駅は、色んな人が訪れます。
（大きくはない駅だけど、どこか懐かしくて親しみのあるこの駅舎が、僕はお気に入りなんだ）
「困ったことはございませんか？　なにかありましたら、気軽に係員までお申し付けください」
　にこやかに微笑んで、お客様をご案内する六郎です。
　駅を利用する方が少しでもあったかい気持ちになりますように、と願っています。
（今朝も絶好の仕事日和だ。頑張るか）
　恭介はお客様を眺めつつ電話番やら車両の見送りやらをしています。
　同じ駅員の制服に身を包み、年も同じの二人ですが、表情は対照的です。
　眉間にシワが寄った恭介の表情はよく言って真面目、悪く言えば固くて無愛想でした。
　勤務態度は至って模範的で、事務仕事に関しては六郎より信頼されているのですが。　

「？……なんか泣き声が聞こえるような」
　その恭介の無愛想な表情に動揺が走りました。
「……まさか！」
　しばらく固まったあとすぐに六郎に助けを求めます。
「ろ、六郎！　出た！　奴が出たぞ！」
「どうしたの？　奴って誰？」
　物腰柔らかく六郎が尋ねます。
「奴？　迷子に決まってるだろう！」
　なるほど、確かに子供の泣き声が聞こえます。
「あっちだね」
　すぐに気がつきそちらへ向かう六郎の後ろに隠れるように、恭介はおっかなびっくりでついていきました。
（子供は苦手だ、顔を見ると泣き出すし声を聞くと泣き出すし……これが大人なら幾分やりやすいんだが）　
　
　柱の陰に座り込んで、幼稚園生くらいの男の子が泣いていました。
「おや君、お母さんは？」　
　六郎は子供の目の高さにあわせて屈み込み、優しい笑顔で話しかけます。
　男の子はしゃくりあげつつ言いました。
「いないの……いなくなっちゃった」
「そっかはぐれちゃったのかな。すぐ探すから待っててね」
　六郎の人当たりの良さには悔しいが感心せざるをえない、と思う恭介です。
（愛想がない顔のせいか子供には怖がられるか、はたまた童顔を理由にからかわれるから嫌なんだ）
　今回の子にはからかわれる心配はなさそうですが。
「この場合は……名前と年だよな？　ええとお前……君、名前は？　何歳？」
　ただ立っているわけにもいかないと、職務を遂行すべく恭介は話しかけます。
（あ、きょう君がんばれ！　表情が硬いよきょう君！　威圧感すごいよっていうか焦りすぎ！）
　しかし残念ながら、六郎のようにうまくはいっていません。
　しかし六郎は止めずに眺めることにしました。
（相当慌ててるね、ちょっと面白いから観察してようか……子供泣きそうだよ！）
「う……うえええん」
　案の定、男の子はまた泣き出してしまいました。
「……お母さんはきちんと見つけてやるから、泣くな」
　とこわごわ頭を撫でてみる恭介です。
「よしよし大丈夫、お兄さんがついてるからね」
　六郎は、安心させるように子供の手を優しく握って言いました。
「ねえ、駅員さんのお部屋見たくない？　特別見せてあげるから一緒に行こうよ」
　泣いていた男の子の目が輝きだしました。
「きょう君、お呼び出しの放送のほうお願いね」
　六郎は、男の子と事務室へ向かいながら恭介に目配せするのでした。

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