テスト勉強なんかよりチャーハンが食べたいです。｜リアクション

テスト勉強なんかよりチャーハンが食べたいです。

　稲場舞はごくごく真面目な弓道少女である。
　テスト期間で部活もお休みの稲場は、この日はまっすぐ桜花寮の自室へ帰るところであった。
「２学期の中間テストももうすぐそこまで来てますし、そろそろテスト勉強をしなくてはいけません」
「チャーハン食えよ！」
　背後からオッサンが叫びながら稲場を撮影して走り去っていくが、稲場は気が付いていない。
「さて、寮へ帰ったらコンビニで買ってきたチャーハン食べてチャーハン食べてチャーハンチャーハン……」
　段々と目の光が澱んでいく。
　呪文のようにチャーハンという単語を連呼し続ける稲場。
　そんな彼女は道の角で少年と激突！
「きゃっ！　ご、ごめんなさい！　チャーハンのことで頭がいっぱいで……！」
　って、なんでチャーハン！？
　稲場は己の口から出た言葉に自身が一番驚いた。
　ぶつかった少年に変な目で見られていないか心配した稲葉だったが……？
「大丈夫だ、チャーハンなら仕方がないよな！」
　爽やかな笑顔を湛えながら、志田朝陽は納得していた。
「いや、そこは納得するところじゃないと思います」
　真顔で稲場はツッコミを入れた。
　だが、湧き上がる違和感。
　本当にそこは納得しなくていいのか？
　そう考えている彼女は、すっかりチャーハンの虜であった。
「すいません、やっぱりチャーハンで問題ありません！」
「だよな！　チャーハンだもんな！」
「「あっはっはっはっはっはっは……！」」
　２人は笑いながら手を繋いでチャーハン社交ダンスをした。
　明らかに何かがおかしいが、周囲もチャーハンで何処かしら頭のネジが外れているので気にも留めなかった。
　実は志田も先ほど、オッサンのろっこんでチャーハン好きになってしまった。
　先程まで彼は単語帳を片手に目を回していたにもかかわらずだ。
「……グググ、アルファベットが宇宙語にしか見えねぇ……。……が、サッカーのためにもぜってー赤点回避だ！」
　糖分補給と言いながらコンビニおにぎり片手に前方をろくに見ずに歩く。
「おにぎりだけじゃ足りないな！　牛丼屋かお好み焼き屋かカツ丼屋かラーメン屋か……。とにかく飯を食ってからだな！　苦手だし、勉強はしたくねぇんだけど……」
　腹ごしらえの算段を立てつつ、志田はひたすら英単語帳をめくりながら歩いていた。
「赤点取るとサッカー部の先輩からキッツイ洗礼が……。再テストで部活の時間を削られるしな。回避するに越したことはねぇ、ってうお！？」
　……こんな感じで稲場に激突した。
　そして激突したおかげで、詰め込んだ英単語が全部吹き飛んだ。
　今までの努力が水の泡である。
「ぶつかってごめんな！　オレはチャーハン食いに行くぜ！」
　妙に顎を突き出しながら、志田は哀愁を帯びた背中で去っていく。
「ケッツァーゴ・チャーハンスキーはクールに去るぜ」
「やだ、チャーハン臭い……！」
　突発的なカオスに、誰もツッコミを入れることなく時は過ぎていく。
「こうしてはいられません！　テオも犯人探しするように言ってきましたし、私も協力しないと！」
　そう言うと稲場は早速コンビニへ駆け込んで、チャーハンを買い込んでモグモグ頬張りだした。
「……って、何でチャーハン食べてるんですか私は！？」
　これでは頭の中がチャーハンだらけで勉強なんてできやしない！
「早急に捕まえてチャーハンを食べに行かなくては」
　真顔でコンビニチャーハンを掻き込む稲場に、もう怖いものなんてなかった。
　てか、もう食べてるよね……？