嵐の夜に、猫鳴館にて｜リアクション

嵐の夜に、猫鳴館にて

　【４】
　大きく満足の溜息をついて、吾妻はカップのお茶を飲み干した。
　空腹が満たされ、温かい飲み物を口にすると、不思議とおちつきが戻って来る。
「にゃにゃ～！　にゃ～！」
　彼より先に食べ終えたガイは、部屋に集まる野良猫相手に、四つん這いになって頬や頭をすりつけ、はしゃいでいる。
「ったく。人をさんざんふり回しておいて、いい気なもんだ」
　それを見やって、吾妻は思わずぼやいた。
「大変でしたね」
　食事をする間に、ぽつぽつと吾妻が漏らした言葉から、おおまかに事情を察して、綾花が言う。
「……ま、しようがないさ」
　吾妻は小さく肩をすくめた。
　その時、突然大きな音を立てて、ドアが開かれた。
「おーい。今帰ったぞー！　なんちゃって。トイレに行ったら迷っちゃってさ……って、あれ？」
　呂律の回らない口と赤い顔で喚いた朱蘭は、驚いてそちらを見つめる綾花、吾妻、ガイの三人に気づいて、固まる。
「え？　ここって、あたしの部屋じゃ……」
　左右を見回し、慌てて外に出てドアの表示を確かめる。そして、自分が部屋を間違えたのだと気づくと、再び中に入って来て頭を下げた。
「すまん！　酔っ払ってて、自分の部屋と間違えた！」
「酔っ払って……って、お前、酒飲んでんのか」
　眉をひそめて問うたのは、吾妻だ。
「や、違うんだ。実は――」
　と、朱蘭は慌てて、それがろっこんの効果であることを、説明する。
「ふうん。……それにしても……」
　まだ不審げに何か言いかける吾妻だったが、続きは朱蘭の叫びに遮られた。
「うわ！　なになに、この猫！　ここって、猫部屋？」
「野良猫たちが、避難して来ているんです」
　綾花が言うと、「へぇ、すごい！」と彼女は目を輝かせる。
「部屋に上がってもいいか？」
「はい、どうぞ」
　うなずく綾花に礼を言うと、朱蘭は部屋に上がり込み、猫たちを抱いたり撫でたりし始めた。
　野良猫とはいうものの、どの猫も人に慣れているのか、あまり警戒する様子もなくおとなしくされるがままになっている。
　そこへ、ノックの音が響いて、メイソンと林檎が顔を出した。
「もしかしてここに、酒浸さんが……」
　言いかけたメイソンが、朱蘭の姿を見つけて声をかける。
「酒浸さん。遅いから、探しに来たんだ」
「メイソン、林檎」
　猫の中から顔を上げ、朱蘭が破顔した。
「猫、すごいな……」
　林檎が、室内の猫の数に小さく目を見張る。内心は「朱蘭ちゃん、いいな。猫たちに、もふもふしたいよ」などと考えている。
　と。
「よかったら、上がって行きませんか？」
　綾花が声をかけた。
「いえ。僕たち、彼女を迎えに来ただけだから」
　メイソンがかぶりをふる。
「あ、ああ」
　うなずいたものの、林檎は猫に触りたくてしようがなかった。
　まるでそれを察したように。朱蘭が猫を抱えて二人のところにやって来る。
「メイソンも林檎も、せっかく来たんだから、もふもふしようぜ！」
「いや、僕は……」
　メイソンは軽く両手を挙げて、あとずさった。が、林檎の方は朱蘭がさしだした猫を抱き取り、その頭や体を撫でる。
　しばらくそうしていると、猫が小さく身をよじって、彼女の手の中から抜け出した。
「あ……」
　思わずそちらに手を伸ばしたものの、しかたがないと林檎は小さく吐息を漏らす。
　それを見やって、メイソンが声をかけた。
「酒浸さん、林檎ちゃん、部屋へ戻ろう」
「そうだな」
　猫を撫で回して満足したのか、朱蘭がうなずいて立ち上がる。
「わかった」
　林檎もうなずき、三人はそれぞれ綾花と吾妻、それにガイに声をかけると、部屋を出て行った。

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