鬼が居ようとランドリー｜リアクション

鬼が居ようとランドリー

　さて再び、星ヶ丘寮です。
　洗濯機の爆発から半時間ほどしたあたり。
　すっかりきれいになった洗濯機の前で、檜扇唱華はすべての手筈を整えました。
「……といったところで、洗濯の準備は完了ですわ」
「ふーん」
　榛名冥は大きな目をキラキラさせて一部始終を見守っています。
　冥が破裂させた洗濯機は壊れていませんでした。多少具合が悪くはなっていましたが、それも唱華が『ろっこん』を使って洗濯機の声を聞き、不調の原因を突き止めて復調させたのです。
「そして洗剤ですが、許容量以上に投入しても意味はありません。そればかりか、しっかり濯がなければ残った洗剤で、せっかく洗い上がった衣類が固くなってしまうのです」
「なるほどねー。じゃあ、こんなもんだね！」
　今度はちゃんとキャップで量った適量を、冥は洗濯機の洗剤入れに流し込みました。すっと吸い込まれていって、これはこれで見ていて気持ちがいい。
「では唱華様、スイッチをお押しくださいませ」
「えっ？　メイが押していいの？」
「もちろんです」
　唱華は笑顔でうなずきました。
「わーい！　じゃあ、スイッチポチー！」
　かくして今度はスマートに、洗濯機は動き出したのでした。
「それではまた、終わるころに」
　と唱華は立ち去ります。
　去り際に唱華は、小声で洗濯機に、
『宜しくお願いしますね』
　と述べて会釈しておきました。
　立ち去る姿もやっぱり、百合の花のような唱華です。

　北条冬華と桜月は、月の自室に移動していました。
「ありがとう。迷惑かけちゃったね」
　月はお茶を出します。
　お茶といってもティーバッグのやつに湯を注いだだけのもの。それでも、時間配分がわからなくてずいぶんと濃厚な茶になってしまいました。しかも、アイスコーヒー用のシロップをつけて出しています。家事ばっかりはどうしても苦手な月なのです。
　けれども冬華は文句ひとついわず茶を口にしています。
「いいえ、あれくらいお安いご用です」
「……やっぱり自分のメイドを雇ったほうが良いかな」
　ところがこれをどう聞いたのか、
「月さんのメイドに？……いいですよ」　
　と冬華はあっさり言ったのです。
「そう北条さんが来てくれるなら助か……って、ええっ！？」
　思わず月の声は甲高くなってしまいました。
「いやいやいや、そんなこと頼めないよ！」
「構いませんよ。私もちょうど、どこかで働きたいと思ってましたもの」
　ところが冬華は乗り気のようです。
「よろしくお願いしますね」
　と、手を付いて頭を下げたのでした。
「あー……まあ、助かるのは……事実だし……」
　ぽりぽりと、ばつが悪そうに月は頬をかきましたが、北条さんもああ言ってくれているし、と気を取り直します。ここはお言葉に甘えるとしましょう。
「こちらこそ、どうぞよろしく……」
　月も手を付いてお辞儀しました。
　二人はお辞儀しあったまま、しばらくそのまま頭を上げられませんでした。
　濃い色の紅茶が、ゆらゆらと湯気を上げていました。

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