白昼斬月　～寝子島辻斬り物語　弐～｜リアクション

白昼斬月　～寝子島辻斬り物語　弐～

【河原での決着】

「橘さん！」
「……あっ」
　はっと咲の声に我に返るが、神速の勢いで踏み込んできた大物の影人に抵抗できずに消失した。
「……おや、楽しくなってきたねぇ」
　子夜は、最後の影人の雑魚を片付けると、棒状の流木を拾い上げる。
（ふふ……これはちょうど良さそう……だ。……どうやら、ある程度の……長さがあれば、斬れる……みたいだね）
「咲君、行くよ？」
　千歳が消えたところを見ている咲に声をかけつつ、ふわりとまるで河原の石など気にならぬように大物の影人へと接近し、斬りかかる。
「……ふぅん」
　ぎりっと、脇差しの影刀で受けた瞬間、反撃が来る。
「……それは、見たよ」
　足運びを使って、その影刀の一撃からは逃れる。
「……神魂関係は本当に碌でもないッ！」
　空いた場所から咲が斬りかかるも、それは影刀をひらりと返されて受け止められる。
　がきっと、はじかれるように三者が散る。
「メガエラ・フォース！」
　咲のろっこん【メガエラ・フォース】がはなたれ、影人の大物の足下へと突き刺さる。
　ろっこんを叫んだのは、きちんと意味がある。
「……しっ！」
　小さく息を吐き出しつつ、子夜が斬りかかる。
　そう、ろっこんの名前を叫んだのは子夜に反撃の合図を知らせるためだ。
　むろん、それは受け流されるが、すぐに突きへと転じ、攻撃をやめない。
「りゃぁ！　りゃぁ！　りゃぁっ！」
　さらに、子夜に合わせるようにして、反対側から前のめりに何度も突きを放つ咲。突きの鋭さは流派の面目躍如といったところか。
　しかし、相手は二刀を巧みに使い、それらの攻撃をさばいていく。
　そして、子夜がすばやく後ろに下がると、相手の影刀を受けた咲はぐるりと持っていた竹刀をぐるりと車輪のように回す。
　そして影刀がはじかれたように飛ぶ。
　時は満ちたと言わんばかりに、咲は二刀目として木刀を抜き放ち、相手に攻撃を浴びせていく。
「貴様の二天一流如き、咲の二刀流の前では児戯だな」
　そして出た挑発の言葉。だが、二刀を扱うのは相手の方が上、未熟な相手に挑発される怒り……その怒りを誘う挑発に敵は乗ってこなかった。
　冷静に、沈着に、咲の二刀の隙を突き、二本ともの竹刀と木刀をはじく。
　終わりだ、と言わんばかりに浴びせられた攻撃を咲はあえてそのまま受ける。
　にやりと笑った顔に見えるのは勝利の確信と、信頼。
「……感謝、しよう」
　その大きく出来た隙を子夜は見逃さない。二刀で子夜の模造刀を受けさせ、用意していた二本目の即席武器で相手を斬る。
　手に肉を切ったという感触を憶え、そのまま相手は消失する。
「……咲君」
　それと同時に咲も消えゆく。
「フッ、二人ならどんな敵でも倒せるさ」
　咲の残したその言葉に、子夜はただ頷いた。
　こうして、河原での戦いは終局を迎える。
　しばし、子夜は瞑目すると、キィンと振り上げた模造刀が浮かぶ月を斬るように刀を振った後、納刀する。
（次、は二人で……勝利を）
　しかし、子夜が待っても世界からの解放は起こらない。
　……嫌な予感がして、子夜は空を見上げた。