白昼斬月　～寝子島辻斬り物語　弐～｜リアクション

白昼斬月　～寝子島辻斬り物語　弐～

【蒼天無き世界へ】

　その時、夏神零は天宵川中流で河原釣りをしていた。
　本日の天候は晴れ、快晴とまでは行かないが、秋晴れが心地よい日であった。
「うむ、なかなか活きの良い魚でござるな！」
　零は、手繰るように釣り竿を操ると、ゆっくりと魚と格闘していく……。
　形の大きな魚影が見えてきた……その瞬間、ふとぐいっと全身が引っ張られるような心地がした。
「むっ？」
　訝しげにあたりに気を配れば、どこからか響くテオドロス・バルツァの声……。
　そして、ゆらりと陽炎のように影人たちが辺り一帯に顕現する。
「……そういうことでござるか！」
　なるほど、と広域に拡散された説明を聞いて合点がいった。
「再び合間見えるとはおもわなかったのう。影人に……。む、竿で戦うしかあるまいな」
　むむむ、と。
　零は自分の持ち物を見て唸る。
　すでに青空はなりを潜め、静かに月が浮いている。
　何ともおぼつかない世界の中、零はさっと戦闘態勢に移行するのであった。
「……夕餉にはほどよい大きさでござったのに」
　……逃した獲物の分は取り戻さなければいけないと、そんな顔で。

【旧市街にて……】

　それが起きたのは車からアングル材を出したときであった。
　突如わき上がった嫌な予感に従って、アングル材を傾けると、キィンと金属同士がたたき合う音が発せられた。
　天動記士郎はうわっと声を上げながらぺたんとコンクリートの道路に尻餅をついた。
　なんという力、と記士郎の冷静さが告げる。
　そして見れば、影人が影刀を振り上げて二撃目を繰り出すところであった。
「ちょ、っと、まっ……！」
　慌ててアングル材を持ち直すと、無理矢理押し込むようにして前に突き出す。
　びくん、とアングル材の先から妙な手応えを感じると、そのまま影人は崩れるように消え去っていった。
「……またですか」
　やれやれと嘆息しつつ、装備を確認する。
　既にテオの情報は皆の知るところとなっているだろう……となれば、自分のやることは明白である。
　仕事用の上着と作業ズボン姿ではあるが、まぁ何とかなるだろう。
　そう考えてから、記士郎は偶然にもテオが告げた日本家屋が目の前にあることを今認識する。
「……どうするか」
　恐らく、味方が居るとしたらこちらに向かっているだろう。
「時代劇くらいしか見ていませんが……」
　雑魚を減らすことくらいは出来るだろう。
　そう考えると、アングル材を構えて、日本家屋へと侵入していった。

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