白昼斬月　～寝子島辻斬り物語　弐～｜リアクション

白昼斬月　～寝子島辻斬り物語　弐～

【アウトレットモールの偶然】

「おらぁ！」
　ビリヤードのキューを薙いで、攻撃する。
　消失した影人を見て、典町託志は不敵に笑う。
「おらっ！　もっとかかって来いよ！」
　アウトレットモールの真ん中にゆっくりと託志は近づいていた。
「ったく、今日は休みだっつーのに……」
　そう言いつつも、目の前で起きた出来事は放っておけない。
　次々と襲いかかってくる影人をやっつけていく。
「いい度胸だな、こう見えて喧嘩は嫌いじゃねぇから、邪魔すんなら容赦はしねぇぞ？」
　そう言って、気合いを入れる。
　一人で。
　気合いを入れねば押しつぶされそうな不安がやってくる。
　シーサイドタウンのアウトレットモール……どうやら戦っているのは自分一人らしい。
　らしいというのは、ここに来るまでまだ誰とも会ってないからだ。
　敵、敵、敵……。
　真ん中に近づくたびになぜか影人の総数は減っていくが、精一杯戦っている託志は気づかない。
　倒せば敵は減る。だから不思議ではない。
　そう言い聞かせてしまえば、それで終わりだったからだ。
　アウトレットモールの真ん中に近づいたとき、ぽっかりと空いた空間が広がった。
　その空間の中心に大物の影人がいる……そして、その周囲には４つの影人がいる。
　何れも達人であることがうかがえる……と直感が告げる。
（どうする？　仕掛けるか……？）
　と、建物の影で託志が迷っていると相手方が騒がしくなる。
　その場から離れ、戻ってきた影人の一人が、一人の女子高生を引きずってきたのである。
「ちょ、まっ！　痛い、チョー痛いんですけど！」
　平均よりはあるらしい体力を使いつつ、大量の身代り祈り鶴を折って進んできた音羽であった。
　敵の攻撃を受けつつカウンターで反撃しつつ進んでいたが、折り鶴のストックが厳しくなり、安全地帯を探していたところで捕まったようだ。
　偶然であるが、託志の隠れている建物の近くを通り過ぎて行こうとする。
「ちっ」
　それを見た託志はいかん、とばかりに飛び出し、影人をキューで斬りつける。
　突然飛び出してきたので、対応が遅れた影人はそれを許してしまう。
「こっちへ来い！」
「！？　ありがと！　それとコレ！」
　立ち上がった音羽は託志に残っていた一つの折り鶴を渡し、隠れるように建物の影へと行く。
「……なんだ？」
「いいから！　敵、敵来てる！　チョー来てる！」
　隠れてる場所からまくし立てる音羽に戸惑いつつも、走り込んできた影人を迎撃する託志。
　が、とっさに受けたため指に影刀を滑り込むことを許してしまう。
「――」
　とっさに痛みを想像した託志だが、痛みがない。
折り鶴が代わりに破れていることに気づくと。なるほど、と納得した顔になり。
「ありがとよ！　
　ニヤリと笑うと、残り２体の取り巻きと、大物の影人１体と対峙する。
「よっしゃ！　仕切り直しだ！」
　いける、大丈夫、そう自分に言い聞かせて。