白昼斬月　～寝子島辻斬り物語　弐～｜リアクション

白昼斬月　～寝子島辻斬り物語　弐～

【九夜山にて……孤立】

　八神修はかつて無いほどのピンチに襲われていた。
　それは……現在この周辺は自分以外周囲に誰も居ないという事だ。
「まじか……」
　周囲の状況を見る。
　――影人。
　――影人。
　どっちを向いても敵ばかりである。
　下手に動くと、危険だと本能が告げる。
（――なるほど、確かに武器を持っていなければ最初は襲ってこない、が）
　修は自分の折りたたみ傘を見る。
　武器としては頼りないが……今はコレしかない。
　現状は、九夜山に入ってすぐのところで、周囲にいる影人は二、三体ほど。
　少し視線を外して、遠くや山の方を見ればわらわらいるので、安心しても居られない。
　
（……大物ごと、地面を【分解】して倒す……倒せるか？）
　もしかしたら、別の箇所を倒した人たちがこちらに合流する可能性もあるが……、それは一体いつになるのかも見当がつかない。
（つまり、自分で何とかしなければいけない、ということか）
「どちらにせよ、進むしかないな」
　逃げることも考えたが、リスクが大きい。あきらめたようにつぶやくと、木を背にしながらゆっくりと上へと上っていく。
（樹の後ろに身を隠しつつ、ゆっくり進むしかない。木の枝を折るか拾うかして武器代わりにするしか……ないだろう。時間さえ稼げば……いや）
　――僅かな援軍の希望を持って、あるいは自力解決のヒントを求めて進んでいくのであった。

【市街地戦】

　市街地のある場所で、彼女は事件に巻き込まれた。
「怪奇現象……？　まぁいいや宴会しようぜ！」
　酒浸朱蘭が事件に巻き込まれ、影人と遭遇したときの一言目はそれであった。
　影は一瞬戸惑うように揺れたが、すぐに影刀を抜く。
「あれ？　なんか怒ってる？」
　ぶんっと刀を突き出してくる。
　とっさに身を引いて避ける朱蘭。
「あはは。すまんかったぜっ！」
　バッという擬音が聞こえるくらいに脱兎のごとく走る朱蘭。
　影人は次々と顕現し、朱蘭を追う。
　しばらく追いかけっこが続くも、先にまいってしまったのは朱蘭の方だった。
「あぁ！　もう！　酔ってるからすぐ疲れるしもうだめ……」
　へろへろと、失速していく朱蘭。
「せめて最後に本当のお酒を飲みたかった……」
　せまりくる影人……もうだめだとあきらめた瞬間であった。
「朱蘭ちゃん！」
　そこに割って入った人物が居る。――維剣姫乃である。
　竹刀を振りかぶって、えいや、と敵を斬りつける。
　斬りつけられた影人は消滅し、姫乃はほっと一息ついた。
　と、思いきや横から襲いかかってきた影人に一閃……ビリッという音と共に影人は消滅する。
「「……びりっ？」」
　朱蘭と姫乃はその音を聞いて首をかしげる。
　……と思いきや、姫乃ははっと思い当たったように自分の胸元を見る。
　それにつられて朱蘭も同じ箇所を見る。
　ボンッと音がするくらい、姫乃の顔が羞恥心に染まる。
「もう何で私達がこんな目に……！」
　そう言って、破れた箇所を隠しつつ朱蘭をみる。
「さては！　朱蘭ちゃん酔っ払って何かしたとか？　可愛いから嫉妬されてるとか？」
「いや、それは無いな！」
　あらぬ方向へ思考が飛んだ姫乃を朱蘭が止めるつつ言う。
「普段の行いは色々心当たりがありすぎて困ったぜ！　……そういえば前にろっこんの影響であれなビデオ借りちゃったな」
　その言葉に、ぴくりと姫乃が反応する。
「たしか題名はオシオ」「だめぇぇぇぇ！」
　タイトルを言おうとした朱蘭を姫乃が止める。
　あははと笑う朱蘭となんか発動してしまった【羞恥心バースト】で、影人が竹刀に斬られていく。まるで、羞恥心を晴らすかのように。
　そうして、敵を倒す内に大物の場所へとたどり着く……。
「――この気配！　この屋敷、何かいる」
　姫乃が気づき、立ち止まる。
「……中ではもう始まってるな。あたしこれが終わったらビデオを返しに行くんだ」
「フラグ立てないで！」
　なんだかんだと言い合いつつ、屋敷へと侵入するのであった。

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