保健室、やっぱり満席です！｜リアクション

保健室、やっぱり満席です！

　chapter.4　セクシーインフォメーション　

「まずは、情報が必要なんだが……」
　女性が保健室へと進む中、八神修はひとり別ベクトルで奔走していた。
　手始めに彼が行ったことは、職員室で言い争っていた女性をデジカメで悟られぬよう撮影し、外見をデータ化すること。
　そうしてプリントアウトされた写真を修は女性が去った後の職員室で、職員たちに見せて回った。
「この婦人の名前と、出来れば息子さんのお名前をご存じですか？」
　これだけのクレーマーであれば職員室内でも知名度は高いはず、と踏んでの彼の行動だったが、個人情報がどうたらと言われて一生徒にそれが教えられることはなかった。
　だが、彼はこんなことでめげない。
「婦人方のエネルギーは侮れないからな……退任運動すら本気で起こしかねない。誰かが止めねば」
　どうにかして、今回の騒動を収めたい。それが、修の願いだった。そのため、懸命に彼は動いていたのだ。
「息子の情報は婦人から芋づる式に入手できると思ったが、前段階でつまずくとはな」
　時間はあまりない。さてどうしたものかと修が思案していると、偶然隣のクラスの猫島寝太郎と遭遇した。顔を見たことくらいはあったのか、なんとなく互いに軽くお辞儀をする。
　と、先に寝太郎が口を開いた。

「その写真……」
「ああ、これか？」
　修が持っていた女性の写真を目にした彼が指さしたものを、修は掲げた。
「どうやらこの写真の女性が鷲尾先生とひと悶着起こしそうでな。できれば息子方面から攻めていきたいんだが何分情報がなくて困っていた」
　そう話す彼に、寝太郎は驚いた声をあげて言った。
「その人の息子さんなら、知ってるよ」
「なに、本当か？」
　今度は修が驚く番だった。よもやこんな偶然のタイミングで、情報が手に入るとは。首を縦に振った寝太郎は、再度口を開いた。
「春に保健室で起きた事件に出てきた男子生徒が今回の件と繋がってる感じがあってね……たぶんその時の男子生徒だと思うんだけど、自分のクラスにいるあの人のお母さんだと思うなあ。参観日とかにも来てたし」
「なるほど、それなら見覚えがあるのも納得だ」
　偶然に感謝するしかないな、と修は小さく笑みを浮かべ、詳しく話を聞いた。
　その息子の普段の様子、部活、学校の成績。その生徒が春に犯したという事件の概要。その時の鷲尾先生との関係。
　寝太郎が知っている範囲でそれらの問いに答えると、修は満足そうに礼を述べた。
「基本情報はあらかた把握できた。助かった」
「ううん、役に立ったなら良かったよ。その情報がどう役に立つかは自分には分からないけど、頑張ってねぇ」
　手を振り背を向け、修と別れる寝太郎。
　彼はその足で、保健室へと向かった。

「にしても、鷲尾先生のセクシーさを減らす方法……うーん、難しいよねぇ」
　歩きながら、寝太郎は今回の事件をどう解決したら良いか頭を悩ませていた。少し早足で歩く彼は保健委員でもあり、彼女と顔を合わせる機会は多い。その彼女の姿を思い浮かべ、苦笑する。
「セクシーが服を着て歩いてるような人だしね」
　ぽわわん、と寝太郎の中で礼美の全身図が鮮明にイメージされる。
　白衣の下で、その存在を主張する魅惑のバスト。
　真っ先に浮かんだのは、そこだった。自然と、無意識のうちに表情筋が緩む。
　どちらかというとのんびりした性格でギラギラした雰囲気はない寝太郎だが、彼とて思春期の男子。こうなってしまうのは仕方のないことなのだ。
「あの胸を目立たなくする方法って言ったら、さらしを巻く、とかかな〜」
　もう一度、ぽわわんとイメージが脳内で広がる。そこにいたのは、「さらしはないけど」と言いながら背を向け、するりと白衣を落とし、白い包帯を巻き付ける礼美の姿だ。
　しかも、なんだか艶めかしい表情と声で「ん……ちょっと苦しいかも」とか言うもんだからたまったものではない。言うもんだから、というか彼の頭の中の礼美が勝手に言ってるだけなのだけど。
「いやいや、余計セクシーでしょ！？　ていうか、まずいでしょ！？」
　我に返った寝太郎が、ぶんぶんと頭を振って妄想を振り払う。あとちょっとで、全身包帯姿の鷲尾先生までイメージを進化させるところだった。
「うーん、やっぱりまずは保健室に行って、たぶん他の人もいそうだし色んな話を聞いてからかなぁ」
　ひとりであれこれ考えていても、不健全な方向にしか頭が働かないと悟った寝太郎は、女性よりも早く保健室に辿り着くべく、速度を上げて廊下を進むのだった。

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