あなたのそばに蕎麦屋すすきのーすすきのー｜リアクション

あなたのそばに蕎麦屋すすきのーすすきのー

　すっかり日が落ちてからも、店内は中程度の賑わいだった。
　こうも寒いと、客足も自然遠のく。出前で済ませてしまう。
　五月は大忙しで、町中を走り回っていた。

　孫の友達、さらに蕎麦通と、学校のために頑張る支援部の面々。
　店主はすっかり一同を気に入り、蕎麦掻を振舞ったりして、なんだかんだで引き留めていた。

「見知った顔が……それなりに、いるな」
　戸を開けた橘勇がつぶやいた。

　……。

　ひとり暮らしをしていると、不意に自炊がおっくうになるときがある。

　まさに今晩の橘勇がその状態だった。
　秋の気配が強く、草花の生命力が横溢していて、妙に心身がだるくなる。
　パルクールもどきと称し、様々なものを障害物に見立てたりして、日々自己の鍛錬に余念のない勇。
　躰の不調には、人一倍敏感だった。

　何とはなしに、やる気が起きない。
　自炊は中止。となると。

（デリバリーは、高い上に栄養価が偏っている。
　定食が手軽に食べられる店･･････旧市街にあっただろうか･･････）

　あれこれ考えた末、彼が選んだのが「すすきの」だった。

「･･････何してるんだ」

　店内の様子を見て、勇がつぶやく。
　バイト仲間の刀を始め、寝子高の生徒が大量にたむろしている。
　それぞれ、蕎麦について熱く語り込んでいたり、小皿に小豆を移したり忙しい。
　勇の見た顔も、それなりにいた。

　相席にするほど混み合ってもいないが、あえて席を離すこともない。
　隣の席に座り、勇はメニューをめくった。

「暖かいものを頂こう……」この時期は、不意に寒くなる。
　栄養バランスを考え天麩羅そばを、と思っていたのだが、サイドメニューが配慮してある。
　今日の漬物が茄子。それなら、他の野菜も取りたい。

　かき揚げ蕎麦に決めた。

「外食は、よくするのか？」刀が尋ねる。
「……いや。考えてみれば、外食なんてそうそうしたことなかったな」一人の生活だと、どうしても栄養バランスをが偏る。あまり外食に興味のなかった彼だが、この店みたいな場所なら、もっと足を運んでもいい気がした。
「懐に余裕があれば、たまにどっかに食べに行ってみるか……」