アナタの後ろにダレカいる｜リアクション

アナタの後ろにダレカいる

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「今日もあまりお客さんはなかったですねえ」
　天動記士郎は店じまいをしながら、暗くなった外を見て独り言を呟いた。
　記士郎の営む雑貨屋は、その名の通り雑貨を扱っている。あまり馴染みのない健康器具や昔流行したものの今はすっかり廃れてしまった玩具、様々なジャンルの古本など、商品の種類は多岐に渡る。
　それらは土間に置かれた箱や棚の中に入れられ、買われる時を今か今かと待っている。
　奥のカウンターには猫グッズやアルパカグッズ、可愛らしい小物が並べられていて店内では華やかな空間である。
　対して、表に近い方はワゴンの中に、園芸用のスコップや小さなバケツという地味なもの。
　それらを店内に入れて、扉の鍵をかけるのが店じまいの作業。
　いつものようにスコップやバケツについた埃を払い、ワゴンを押して店内に入れようとした時、背後に何かの気配を感じた。
　何となくではあるが、記士郎にはそれが人間の気配でないように感じられた。
　振り返ることはせず、埃を払いながら記士郎はそれに声を掛ける。
「中に入ってはダメですよ」
　記士郎の声に拒絶するような冷たさはけしてなかったが、どこか確固とした意思を宿している。
　返事はないが、気配が動く様子もない。
　記士郎は小さく頷いて微かに微笑むと、閉店作業を続けた。

　記士郎には霊感があるわけではない。
　しかし、時折そういった「何か」が自分を見ているのを感じることがある。
　いつからかは覚えていないが、気がつけば「何か」の存在を認知していた。
　「何か」は記士郎に害をなすことはない。記士郎の方からも、それに対して何かをするわけでもない。
　見られていると気付いても、記士郎は平素の通りに閉店作業を進めるだけだ。
　ワゴンを押し込んだところで、記士郎は再度口を開いた。
「静かに見守っていて下さい」
　塩を撒いて追い払うわけでもなく、こちらに招き入れるわけでもない。ただ、家の中と外という境界線はしっかり引いておく。
拒絶をしないのは、向こうはきっと寂しいのだろうと思うからだ。
　自分が拒絶してしまったら、行き場所がなくなってしまうかもしれない。だったらせめて、自分はそれの居場所になろうと……記士郎はそう思う。
　それに、誰かが傍にいるというのはけして悪い気分ではない。
　ただそこで見守っていてくれるだけでいいのだと、記士郎は思う。
　姿を見てしまうことがないよう、けして後ろを振り返ることなくいつもと変わらぬ日常を過ごしている。　

　後は、ガラス戸の鍵をかけてカーテンを閉めるだけで店じまいは終わる。
　鍵に手を伸ばしたところで、背後の気配が消えた。
「おやすみなさい」
　ふ、と表情を和らげながら柔和な声で言うと、木々が風に揺れる音が耳に届いた。
　それが挨拶代わりなのかただの偶然なのかは分からないが、きっと挨拶代わりなのだろうと思うようにした。
　鍵をかけ、カーテンを閉めようと手を伸ばしたところで窓の外を見上げる。
　周囲を木々に囲まれているため薄暗いが、今日は月が明るい。
「明日も良い天気ですかね……」
　この空なら、天気が崩れることはないだろう。
　エプロンのポケットにいつも入れている、白蛇の鱗をそっと布越しに押さえた。
　ろっこんを使わなかったのは、何故だか明日晴れる気がしたからだ。
「……明日は、お参りに行きましょうか」
　「何か」が来た翌日、必ず訪れる近所の神社を思い浮かべながら、記士郎は微笑んだ。
　遠くの空で、星がチカチカと瞬いた。