アナタの後ろにダレカいる｜リアクション

アナタの後ろにダレカいる

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　寮の庭が、沈み始めた夕陽に赤く照らされている。
　庭に出た御巫時子は、視線を感じて振り返る。しかし、後ろには誰もいなかった。
「誰か、いますか……？」
　返事はないが、確かに視線を感じる。垣根の辺りから見られているような感覚を味わうが、姿が見えないことに不思議そうに首を傾げて夜鷹の方へ視線を投げる。夜鷹はいつもの通り、寮の木に止まって毛づくろいをしていた。
「何でしょう……？」
　何故か気になり、垣根の方へそっと近寄っていくと、時子の耳に鳥の羽音と鳴き声が届いた。
　どうやら、二匹の鳥が時子を見ていたらしい。
　灰色の羽毛に覆われており、白い腹には黒い縦班が入っている。大きさは、雀と同じ程度だろうか。
　見たことのない鳥に、時子は微笑みかけ、自分のろっこんを使う。
　「初めましてですね……。こんばんわ……」
　時子の言葉に、鳥が目を瞬かせた。言葉が通じることに、驚きつつも喜んでいるらしい。
「ええ、常にお話できるわけではありませんが……良かったら、こっちでお話しましょう」
　縁側に向かい、時子は自分の隣を軽く叩く。二匹の鳥――エゾビタキは時子を挟むように降り立った。
　鳥達は興奮した様子で翼を動かしながら時子に話しかける。
　鳥と会話が出来る人間がいると聞いていたこと、興味を持って来てみたこと、最初は言葉が分からず、時子をじっと見つめていたこと、こうして言葉を交わすことが出来、とても嬉しいこと――時子は、頷きながら鳥達の声を聞く。
「ありがとうございます。あまり、見たことのない鳥さんですけど、いつもこの辺りにいらっしゃるんですか？」
　ふるふると翼を振るわせる。渡り鳥らしく、北から南へ飛んでいくらしい。
「まあ……長い旅をするんですね。良かったら、鳥さん達がいた場所の話を聞かせてもらえますか……？」
　口元に手を当てる時子の周りを、鳥達はぴょんぴょんと回る。可愛らしいその仕草に、意識せずとも笑みが零れてしまう。
　夜鷹は相変わらず木に止まったまま、一人と二匹の様子を眺めていた。

「ロシアから、東南アジアに……すごいですね」
　鳥達の話は、とても面白いものだった。
　時子が行ったことのないような場所の話を二匹は口々に話し続けた。しばらくしたら、越冬のために東南アジアへ向かうのだという。
　時子の指に乗ったり、膝の上に乗ったりとはしゃいだ様子を見せている。
「たくさんのお友達さんが、いるのですか……？」
　聞くところによると、鳥の情報網は随分と発達しているらしい。そういえば、時子が話しかけても最近は驚かれることが少なくなっていた。
　二匹との話に夢中になっているうちに、陽が随分と傾いていた。鳥達は名残惜しそうに時子の周りを回っている。
　また時子に会いにきても良いかという問いかけに、ふわりと笑みを浮かべながら頷いた。
「はい、もちろん。是非遊びに来て下さい。……そうだ、ちょっと待ってて下さいね」
　時子は縁側から一階に入ると、少し前まで花を生けるのに使っていた皿を持ってきて、浅く水を入れる。
　それを片手に、縁側へ置いておく。
「これ、水浴びにどうぞ。毎日、お水を入れておきますから……。お友達さんも来てくれて大丈夫ですよ。ヨタカさんとも、仲良くして下さいね」
　時子が夜鷹の止まっている方向を指差すと、鳥達はようやく夜鷹の存在に気付いたらしい。驚いたように跳ねて、数度翼を動かした。

「ヨタカさんは、気付いていたんですね」
　二匹の鳥が去った後、時子と夜鷹は会話を交わしていた。
　夜鷹は二匹に気付いてはいたが、危険な存在ではないからと静観していたらしい。
　時子は、先ほど作った簡易的な水浴び場を見て柔らかく微笑む。
「しばらく、賑やかになりそうです」

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