ご利益のある霊験あらたかなアルパカさん｜リアクション

ご利益のある霊験あらたかなアルパカさん

　【午後０時の情報収集】

　「おおっ、やっぱり人が集まっているのだっ。こんにちはなのだっ」
　後木真央が、飼育員さんの忙しそうな完全なお昼時を避けつつ、アルパカのスペースに着いた時には既に綾辻綾花と御剣刀の姿があった。

　「こんにちは。
　アルパカは昼よりも夜の目撃談がずっと多かったので、夜に探索に出る前にアルパカの事を聞いておきたいと思って」
　綾花が小さく真央に頭を下げて会釈する。
　「後木じゃないか。てっきり追い掛けるのは猫専門だってばかり思ってた」
　「刀ちゃんもこんにちはなのだ！
　真央ちゃんはＮＭＲ（寝子島ミステリーレポート）ネタとしてはもちろんっ、コーオンドーブツは全て大好きなのだっ！　アルパカのフーちゃんも例外ではないのだ！」
　どん、と真央が胸を張る。

　そんな、お互いが軽い会話を交し合っている間に、アルパカの世話係をしていた飼育員が姿を現した。
　その表情は疲労困憊も良いところ。よろめいている姿を見ればゾンビを髣髴とさせるかも知れない。

　「だ、大丈夫ですかっ！？」
　綾花が心配そうに声を掛ければ、飼育員は精根尽きつつも、何とか無理した笑顔を向けた。
　「いや、変な噂が立つ中、こうして話を聞きに来てくれたのに感動してしまって」
　「………………」

　──もれいびとして、様々な事件に遭遇してきてしまった身として、この場にいる３人の誰もが、その『変な噂に確信を持ったから』集まったとはとても口に出しては言えず。
　……飼育員の顔から無言でそっと目を逸してしまったのは仕方の無い事だった……。

　
　「フーちゃんの性格かい？
　フーちゃんはアルパカの中でも人懐っこくってね。
　他のアルパカよりも、ずっと気さくで元気にスキップするようにジャンプしている姿が、お客さんに大好評だったんだ」
　綾花が急いで、その情報を常備の猫メモとは別の手帳にメモを取る。

　「アルパカは草とか苔とか食べるって聞いたのだ。フーちゃんの好物教えてほしいのだ」
　「あ、俺も丁度フーちゃんの餌を分けてもらおうと思ったんだ。聞いても手に入らない可能性もあるしな」
　「ああ！　もちろんだとも！」
　出てきた飼育員が一旦引き返り、また戻ってきた時には、新鮮な青々とした長い草と同じ種類の枯れ葉を持ってきた。
　それを袋に入れて３人にそれぞれ分けてくれる。

　「他にも僕に出来る事があったら何でも言ってくれ」
　飼育員の言葉に、刀がしばらく思案した後、念の為にと前置きをして尋ねる。
　「そうだな……もし、夜にアルパカを保護したらどうすればいいですか」
　「飼育員がしばらく２４時間体制で起きているから、真夜中でも動物園に届けに来てくれて構わないよ」

　その返事の傍らで、真央が赤猫リュックと格闘するかのように、しばらくがさごそしてから、デジカメを録画モードにして飼育員に渡す。
　「もしよかったら短くフーちゃんへのメッセージを短くお願いしたいのだ、これ見せたら自主的にフーちゃん帰ってくるかもしれないのだ」
　デジカメを渡された飼育員の目が僅かに霞んだ。
　毎日我が子のように可愛がっていた存在がいなくなっては、それはさぞ切ない出来事であった事だろう。

　「フーちゃん、皆心配しているよ。美味しいご飯を用意して待っているから早く戻っておいで～」

　まさか当のアルパカが光り輝きながら旧市街を往来闊歩しているとは思わない、飼育員さんの切な一声をデジカメに収めつつ。三人とも、何とも言えない気持ちに駆られながら。
　一同は、夜までの間に聞き込みなどで更に情報を集めるべく、その場で一旦解散となった。