ご利益のある霊験あらたかなアルパカさん｜リアクション

ご利益のある霊験あらたかなアルパカさん

　　【夜のお散歩・ティーブレイク】
　
　「るいりちゃん、夜のお散歩恐くない？」
　鹿嶋洋美が、まるでお母さんのような柔らかな物腰で、手を繋いで旧市外を歩く劉瑞麗に声を掛けた。
　「るいり……──恐くない。悪い人からの対処、教わって慣れた」
　それでも、その言葉の陰で洋美の手がぎゅっと握られた。
　「思いのほか見つからないね。
　るいりちゃん、ここの側で少し休憩しようか。るいりちゃんの好きなゴマ団子もあるよ」
　言いながら、洋美は優しくその手を握り返してあげる。
　それとほぼ同時に、ゴマ団子の言葉に瑞麗の緊張に張り詰めていた瞳は大きく見開いて洋美を見た。

　しかし過去に叔父に食べすぎなのを咎められたのであろう、罪悪感に似た申し訳無さに瑞麗は再び目を伏せる。
　「叔父さんには内緒ね」
　「……！！」
　それを悟ったかのように、秘密とばかりに小声でささやいた洋美に、瑞麗は満面の笑顔で応えた。
　二人で車道ではないガードレールから少し離れた外に出て、少し他の道より高くなっている草むらの上に並んで座る。

　「るいり、お茶淹れてきた」
　座りながら、朝の絵日記と同じバッグに入っている魔法瓶から、瑞麗は温かい烏龍茶を取り出した。
　コップが二つ付いた魔法瓶から、片方のカップを洋美に渡し、両手で、溢さないようにと一所懸命にお茶を注ぐ。
　「ありがとうね」
　洋美の優しい声に、少し瑞麗も嬉しくなりながら、いそいそと自分の分のコップにも烏龍茶を注いで。
　無意識に緊張で張り詰めていた息を可愛らしい声と共に一気に吐き出した。

　お互いにお茶を一口。今はアルパカではなく、寛いで星も綺麗な夜空を眺めながら。
　洋美の方から、ふと気になった事を聞いてみる。
　「るいりちゃん、光るアルパカに出会えたら、どんなお願い事をする？」
　瑞麗のカップを持った手に、少し緊張したように力が篭る。

　「お願い事は決めてある。
　でも内緒。
　ふーちゃんに会うまで言わない」
　そんな決意を新たにする瑞麗。
　「そっかー」
　洋美のそれは、軽く推測こそすれば相手を否定する訳ではなく、相手の思いや言葉を受け入れる為のもの。
　追求しない洋美に瑞麗は、逆に少し不安そうに尋ねた。
　
　「洋美は叔叔とずっと仲良し。……洋美は叔叔のお嫁さんになる？　そしたらるいりとも家族になる。
　洋美が家族になってくれたら、るいり嬉しい。
　……」
　話の途中から相手の目を見るように洋美に話し掛ける。
　「叔叔をとられちゃいそうでちょっとだけ不安だけど……
　洋美は叔叔の事好き？」

　それは７歳ににしては、とても大切な質問だった。
　洋美は少し考えてから、
　
　「家族……アハハ、お嫁さんかぁ。
　お母さんは自信ないけど、るいりちゃんみたいな子と家族になれたら嬉しいな、私一人っ子だったから、妹とか憧れてたしね。

　……うん、大好きだよ、出来るなら、ずっと一緒にいたいって思うくらいにはね」

　洋美は、髪形を崩さない程度に、瑞麗の頭をそっと大切なものを撫でるように触れて、穏やかな口調でそう告げた。