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旧市街の路地の奥、秋の夕闇にふわりと浮かぶ赤提灯の光に、
オーデン・ソル・キャドー
は湖水色の瞳を細める。
主の足が緩むのを感じ取り、傍らを歩く
エリザ・マグノリア
はそっと振り返った。
「オーデン様?」
「エリザが言った通りの、いい雰囲気のエスタミネですね」
見る者に柔らかな印象を与える整えた髭の口元に心底嬉しそうな笑みを佩き、オーデンは己の執事を見遣る。緩めた足を再び進めながら、宝物を見つけた子供のように瞳を輝かせる。
「ここならきっと、おでんもあるでしょう……!」
「焼き鳥も美味しいです」
家族同様に過ごし、弟のようにも思う主のおでんへの偏愛っぷりに、エリザは物静かな口元を思わず笑ませる。
「此方で御座います、オーデン様」
黄色いパトランプが忙しなく回る『居酒屋 ハナ』の電光看板を楽しげに見つめるオーデンに、エリザは入り口を示す。
木造二階建ての一階部分を店舗とした古びた居酒屋の間口は酷く狭い。その上、縄暖簾の奥の格子戸の半分は積みあがったビールケースに隠れている。戸の脇には、焼き鳥やビールの模型が飾られているものの、その大部分がビールを掲げて微笑む水着美女のポスターで隠れた硝子ケース。
雑然とした入り口に眼を奪われながらも、執事の開けた格子戸を潜った途端、
「はい、いらっしゃい!」
威勢のいい男の声と、狭いカウンターだけの店内にもうもうと満ちる炭火の煙と匂いに迎えられ、オーデンは眼を瞬かせる。
「あれ、こないだのお客さん。毎度どうも、ありがとうございます」
「お邪魔いたします」
長身のオーデンと変わらぬ背丈の熊じみた容貌の店員に、日本式の綺麗なお辞儀をするエリザに倣い、オーデンは頭のシルクハットを取る。
「あ、ええと、帽子は後ろの衣紋掛けにでも、って……こちらさん、日本語は?」
「オーデン様は日本語にも堪能でいらっしゃいます」
「大丈夫です、少しは話せます」
カウンター向こうの店員に微笑み、傍らのエリザにも微笑み、オーデンは帽子を壁の衣装掛けに引っ掛ける。店員に勧められるまま、他に客のいない細長く狭い通路に無造作に並べられた木製の長椅子にエリザと並んで腰を下ろす。
「おでんはありますか」
おしぼりとお通しの薬味と鰹節たっぷりの冷奴を目の前に、オーデンはわくわくと店員に問うて、
「おでんは冬場しかやってないんですよ、すみません」
「そうですか……」
申し訳無さそうに返された。がっくりと肩を落とす。日本の心、おでんは日本の何処にでも、春夏秋冬何時如何なる時もあるわけではないのか。嗚呼なんたること。
「おでんとは少し違いますが、牛筋の煮込みはありますよ」
「ではそれを。焼き鳥は盛り合わせを塩タレ味比べで」
おでん愛のあまりにおでんの不在を嘆くも、元よりの楽観主義なオーデンはすぐに気持ちを立て直す。日本全国のおでんを食べ歩くうちに覚えた焼き鳥も流暢な日本語で頼む。
「それから、SAKEをください」
「ああ、日本酒ですね」
「一度挑戦してみたかったのです」
「じゃ、旨い冷酒をお持ちします」
張り切って準備に取り掛かるも、店員は白金髪に灰眼のエリザと黒髪蒼眼のオーデンとを交互に見遣る。二人分の酒のグラスと硝子製銚子に入った日本酒を供しつつ、あの、と思い切ったように問いかける。
「不躾にすみません、お二人はご夫婦で……?」
「夫婦ではないですが、家族みたいなものです」
「私はオーデン様の執事にございます」
穏やかに笑むオーデンの隣で、エリザは眼鏡の奥の雪灰色の瞳を殊更冷静に瞬かせる。
「執事、ですか」
見るからに外国人な二人のグラスに日本酒をお酌し、店員は好奇心につぶらな瞳を輝かせる。
「便宜上の立場みたいなものです」
欧州の古くからの名家であり資産家であるキャドー家に名を連ねるオーデンは鷹揚に微笑む。
「代々続く共同経営者と言うべきでしょうか」
エリザが血を引くマグノリア家は、キャドー家の執事を代々務め続けてくれている。マグノリア家は、財務から家事まで何でもこなしてくれる信頼出来るパートナーなのだと、オーデンは父から聞かされている。
「代が変わっても続く友人の様な関係です」
オーデンが掲げるグラスに遠慮がちに続き、エリザは冷たい酒に唇を付ける。喉越しの良さに反して、思いがけず身の内を熱くする酒精の強さに胸元を押さえる。
「私には懸命な父と聡明な二人の母が居ました。外からどう見えていたかは知りませんが……」
酒の香に誘われ、店員の興味に請われ、家族のことを口にするオーデンの横顔を見つめていて、ふと、脳裏を故郷に居た頃のオーデンの姿が過ぎった。
あれはキャドー邸内のどの部屋だっただろうか。キャドー家の敷地にマグノリア家の屋敷が有されていた為もあり、オーデンとエリザはほとんど生まれた時から共に育ってきた。
エリザに四歳下の弟が出来、オーデンに五歳下の弟が出来ても、それは変わらなかった。少々複雑ながらも、主家の家族は皆どこまでも仲が良かった。
少なくとも、キャドー家敷地内に於いては。
子を宿さぬことを悩み、己の親友でもある侍女を当主の側室として推した正妻。それを受け入れた当主と侍女の間に生まれ、当主の実子でありながらキャドー家に養子として迎え入れられたオーデン。
(生まれるはずのなかった、奥様の御子)
オーデンが生まれて五年の後、正妻が次男となるオーデンの弟を出産した。賢明なる当主は煩い親戚筋を黙らせる為、すぐさま後継一位を弟、二位を兄たるオーデンと定めた。それでも名家たるキャドー家には様々の思惑絡まった騒動が有った。キャドー家に極めて近しいエリザの知る限り、家庭内は至って幸せに見えていたが、
(オーデン様は)
オーデンが十五の歳に実母たる侍女が他界して後、オーデンに対する親戚筋の風当たりは一層強くなっていたように思う。当主も正妻も、そして執事であるエリザの父も、懸命にオーデンを守ってはいたが、
――家を、出ます
オーデンからそう相談を受けたのは、体の弱かった弟が立派に成長し、二十歳を迎えた頃。相談と言うよりも、それは決意表明に近かった。
「外からどう見えていたか知りませんが、私は優しい母親が二人もいる自分を、とても幸運だと思っていましたね」
酒を飲みながら店員に語るオーデンの顔は明るい。
(あの時とは違う)
あの日、家族に別れを告げるためにキャドー家の応接室に入っていったオーデンの深刻な顔を、エリザは思い出す。応接室の前に立ち尽くす己の姿も、また。
同じ敷地内で育ったオーデンを弟のように思いこそすれ、あの頃はまだ、オーデンは己の主ではなかった。
弟のように思うオーデンの行く末を、閉ざされた扉の前で思った。
親友の遺児でもあるオーデンを我が子と想い育てて来た正妻は引き留めるだろう。オーデンを兄と慕う弟もまた同じに。
オーデンの父である現当主は、おそらくは我が子の願いを許す。例えどれほど悲しもうとも、彼はそうするだろうとその時エリザは思った。
(ならば、私は?)
マグノリア家を継ぎキャドー家執事となるのは、基本的に男子とされている。次期執事とされる弟は優秀で、キャドー家次期当主であるオーデンの弟もその両親に似て聡明で、――キャドー家は安泰だろう。
己はキャドー家執事たる弟の補佐として、今は父を、行く行くは弟を支えていかねばならない。それは理解している。
理解はしているが、胸に渦巻く思念に体を支配され、エリザは身動ぎもできなくなる。
(私は……)
閉ざされた扉を見つめる。もうすぐ、彼が扉を開ける。己の道を己が手で切り拓かんとこの家を出て行く。出て行ってしまう。
彼には恐らく十分な財産分与が為されるだろう。
だが趣味人である彼にそれの管理が出来るだろうか。
(そもそも明日から泊まるホテルの手配は出来ているのだろうか? そこまでの交通手段は?)
己が思念に加え、オーデンの身の回りの心配が心中に降りかかり、エリザがその場に立ち竦むばかりになった時に、扉が開いた。
オーデンが沈痛な面持ちで応接室から出て来る。
「貴女とも、お別れですね」
「……いいえ」
家族に告げるのと同じ寂しい声音で別れを切り出されて、エリザは反射的に胸に手を当て頭を下げる。
それは臣従の姿勢。
「今から私は貴方の執事。お別れは遠い先の話です」
幼馴染でもあり姉でもある己の一生を捧げる願いを、オーデンはどう受け取ったのだろう。息を呑む気配がした。おそらくは一度は断ろうと首を横に振ろうともした。けれど結局、オーデンは己の一心なまなざしを、衝動的で一途な願いを、受け止めてくれた。
(そうして私は、)
今、己が主とする男の傍らに在る。
あの時の衝動を、行動を、己が道行くオーデンの背を見つめながら自己分析したことがある。
キャドー家を出るオーデンに従ったその理由を問うてきたキャドー家親戚筋に、血に従ったと告げたことがある。
己が手を取り心配する弟に父に、弟を想う姉として助けてやらなければ、と伝えたことがある。
(けれど、もうひとつ)
エリザは傍らに座し、店員と楽しげにおでん談義を繰り広げるオーデンを見つめる。
(私は、貴方を)
最後の想いは、故郷を遠く離れ東の果ての島に辿り着いた今に至っても、未だ誰にも打ち明けたことはない。
けれどそのどれもが己が内の真実であろうと思う。
その己が真心に従い、エリザはこれより先も主に着いて行くことをそっとそっと、誓う。
「コンバンワー! また来たヨー!」
穏やかな静寂を打ち破る勢いで格子戸が開いた。縄暖簾を跳ね除け、黒髪ショートに夏空色の瞳が印象的な少女が店の入り口に立つ。タンクトップから肩も剥き出しの褐色肌の腕を元気に上げて、
「お腹が空くノ。なんだかとってもぺこぺこネ!」
「そりゃまあ腹も減るだろ」
力いっぱい宣言しつつ手近い椅子に座る少女の後、少女よりも頭ひとつと半分は優に高い、白髪交じりの黒髪を結い上げた男が立つ。顔のあちこちに傷跡のある強面を僅かも崩さず、先に座った少女の肩に手にしていた薄手の上着を掛ける。
「ありがとネ、柘榴」
「腹ん中のガキの分まで食え。あと冷やすな」
「いらっしゃい、毒島さん」
声掛けられ、
毒島 柘榴
は鋭い黒の眼を店員に向ける。
「女将はどうした」
「ちょっと風邪っ引きで」
一見何人か殺ってそうな風貌の柘榴に、人食い熊じみた容貌の店員は愛想の良い笑みを返す。
「なんだ、婆さん風邪なのか?」
「えっ! 女将は風邪なの? 大丈夫ナノ?」
お通しとおしぼりを受け取り不機嫌そうに眼を歪める柘榴の隣、少女に見える容貌のその実は柘榴の妻で三十路も半ばの
毒島 イヴ
は蒼い眼を丸くする。
「……養生するように言っとけ」
伝えます、と嬉しげに答える店員に小さく顎を引き、柘榴は煤けた壁の品書きを眺める。後で差し入れに風邪薬を持って来てやろう、と無愛想な顔のままで考える。
「女将の焼き鳥は美味しいから早く良くなってもくれないと困るネ」
お通しの小鉢に早速箸を付け、イヴはうんうんと頷く。
「お隣さんも、女将が良くなった頃にまた来ると良いのヨー」
隣席で並んで焼き鳥と酒を楽しむ上品な雰囲気の男女に向けて人懐っこく手を振って見せる。
「おでんは食べられますか」
「女将さんのつくるご飯は何でも美味しいのヨー」
真剣な顔で問う紳士に、野生的美女は力強い笑みで答える。
「そうですか、それは楽しみです」
「では、そろそろ……」
心底楽しみな顔をする紳士を、傍らの凛とした佇まいの淑女が促す。会計する店員には淑女が応対し、紳士は身支度を整える。
「お先に失礼いたします」
淑女がイヴと柘榴に丁寧な挨拶を残し、二人は店を出て行く。
「……人に歴史あり、ですね」
二人を見送り、店員はぽつり呟く。改めて毒島夫婦とカウンター越しに向き合う。
「お二人の昔話も、良ければ聞かせてもらえませんか」
「……前半はつまんない話だけど大丈夫?」
イヴはちょっと首を捻りかけて、
「ずっと気になってたんです、お二人の馴れ初め」
店員のその一言に逆に青い瞳を輝かせる。大好きな旦那さまとの出逢いの話が出来るなら、
「じゃあ、話しちゃおう! 面白くなるのは柘榴との思い出からネー」
「ハン、つまんねぇ話だよ」
顔中で笑うイヴの隣で、柘榴はしかめっ面をする。妊娠中の妻には炭酸水をひとつ、自分にはウーロン茶をひとつ。いつも通りの焼き鳥盛り合わせをたくさんと豚とねぎまにポテトサラダ。
「柘榴は飲んでいいのヨ」
「今日は付き合いてぇ気分なんだよ」
ぶっきらぼうに言い切り、柘榴はお通しの温奴にたっぷり掛かった鰹節を箸でつまむ。
「じゃあ、柘榴。柘榴の子供の頃の昔話! 聞かせてヨ」
「馴れ初めはどうした」
「それはその後! 柘榴の話が聞きたいノ」
愛妻にねだられ、柘榴は店員に視線を投げる。
「てめえは知ってんだろ」
「『不良殺し』の頃なら」
「そりゃ高校時代だ」
苦々しげに唇を歪め、にこにこと笑み絶やさぬ愛妻を再度見る。がりがりと白髪交じりの黒髪を掻く。
「フン……昔話な」
黒の眼を瞬かせ、片目を片方の掌で覆う。
「……娘見ればわかるが、」
先祖にアルビノ持ちの外国人でも居たか、運悪く先祖帰りした結果が、
「俺は実は銀髪赤眼よ」
その影響か昔はひどく病弱だった。追いかけっこにかくれんぼ、外で友達と遊べることは少なかった。
「虐められっ子だったぜ、カカッ!」
幼い頃の寂しさを笑い飛ばせるほどに、柘榴は今を幸せだと思っている。
「近くの剣道道場通ったり、親父が地下闘技場なんて作って親父に扱かれたりな紆余曲折あって、」
今の身体の強靭さを手に入れたことも、昔を笑い飛ばせる理由のひとつ。
「んで、自分の実力がどんなもんか確かめたくて、大学半年くらい休学して世界周りながら武者修行したわけよ」
「そう言えば昔しばらく見ない時期がありましたね」
店員がレモンの輪切り入りの炭酸水とウーロン茶、ポテトサラダをふたりの前に置き、先客の食器を手早く片付けに入る。
「……で、イヴと出会ったわけだ」
ウーロン茶を口にして、柘榴は傍らの愛妻に水を向ける。
「イヴはネー、ブラジルのストリートチルドレンだったんだヨー」
ポテトサラダとお通しをつまみに炭酸水を飲み、イヴは至って軽い口調で話し始める。
「マア、生きる為に色んなことしたネー」
詳細話してもつまんないから話さないけど、と肩を竦める。好奇心に満ちた視線を向ける店員には、
「……こっちでいう『悪いこと』ばっかりネ」
天真爛漫な笑顔と共、他言無用とばかりの鋭い殺気を放って口を噤ませる。
「で、紆余曲折あって、」
夫と同じ言葉でややこしいあれやこれやを大雑把に省く。無口になった店員が一生懸命焼いたねぎまや豚の串の皿を受け取り、旺盛な食欲で平らげていく。
「地下闘技場でファイターやってたノ」
イヴの言う『地下』が言葉通りの意味なのか、言外の血生臭い意味があるのか。多分あるのだろうと思いつつも、店員は聞けずにただ耳を傾ける。
「そしたら武者修行中の柘榴がやって来てネ、レッツファイト、したノ」
「レッツファイト、ですか……」
「あの時は驚いたな……まだ中学生みたいな乳くせぇガキが自分と互角な実力ってのはへこみそうだったぜ」
「素敵な『殺し合い』だったのヨ」
瞳に星とハートマークさえ浮かべかねない表情と声音で語るイヴの傍ら、柘榴は無言で頬を赤らめる。
「柘榴とネ、こう!」
不意にイヴが放った拳を咄嗟に片掌で受け止め包み込む。間髪入れずに飛んで来たもう片方の拳も同じようにもう片手で止める。ふたりは椅子に座したまま、互いの両手をきつく組み合わせて見詰め合う。
「こうやってる時にネ、言われちゃったノ。『可愛い嬢ちゃんにはこんな場所は似合わねェ、普通に生きな』って」
初めて出会ったその日、拳を交えた少女に向けて言った言葉を、今日はその少女に面と向かって繰り返され、柘榴は思わず脱力する。
耳まで真っ赤になる愛しい旦那さまの胸にイヴは歓声あげて飛び込む。無邪気な笑顔でぎゅっと抱き着く。
「そんな事言われたの初めてだったから、つい惚れちゃったネ」
「……死闘の挙句にしかも懐かれたのがな、余計に堪えたな」
負けちゃったしネ、とイヴは頬を赤らめる。仲良し夫婦をカウンター越しに眺め、店員は羨ましいとため息を吐く。
「元よりイヴより強い男が好きだったしネ、つい押しかけちゃったヨ」
夫から離れ、イヴはあっけらかんと照れて笑う。日本人の男を追いかける為に地下闘技場を営む組織から抜ける際、言うも憚られる血生臭い逃亡劇を繰り広げたことをその笑顔の裏にしっかりと隠して。
「後は前話した通り、イヴと結婚してこの有様だ」
「馴れ初めはともかくその有様は心底嫉妬します」
追加の焼き鳥を炭火の熾る焼き台に置き、未婚の店員は正直な感想をぼやく。
「まあ、奥さんが幸せならいいんじゃないですか」
「イヴは幸せヨー」
次の焼き鳥を今か今かと待って、イヴはカウンターの上の柘榴の手を握る。
「柘榴のお嫁さんとしてここに居着いて、……娘産んだり、先生やったり、女将にお酒飲みながら愚痴聞いてもらったりネ。そうだ、次に来た時はまた女将と話したいネ」
幸せな笑顔で幸せを数え上げる。故郷に居た頃には望むべくもなかった幸せを、日本の小さな島で手に入れた。孤独に闘わなくていいというのは、例えようも無く幸せだ。
「『愛』とか『幸せ』だらけの素敵な日々だけど、……一つだけ後悔あるノ」
「なッ、何?」
思いがけないイヴの言葉に、柘榴が今にも誰かを殺害しそうなおっかない顔をする。
「それは何だ、言ってみろ」
夫に情熱的に両手を握り締められ、間近に顔を覗き込まれ、イヴは褐色の頬を桃色に染める。青い瞳をちょっと伏せる。
「お義母さんとは最終的に仲良く出来たけど、最後までお義父さんと仲良く出来なかったヨ、それだけは悲しいネ」
「……いや、イヴ。気持ちはわかるが」
イヴの両手を取ったまま、柘榴はそっと愛妻から眼を逸らす。
ブラジルからの押しかけ女房は、押しかけて来るなり柘榴を扱き上げた柘榴の頑固親父にいきなり喧嘩を吹っかけた。しかもその後、テロと言わざるを得ない出来映えの料理を振る舞い、柘榴と柘榴の両親の計三人を病院送りにまでした。
「あれで好かれる方が無理だ」
母がイヴの料理で病院送りの憂き目に遭ったことも許して父を説得してくれなければ、もしかしたら今のこの幸福はなかったかもしれないとさえ柘榴は思う。
「でも、お義母さんのお陰で料理進歩したし!」
(そういやお袋嘆いてたな、『生きてる間にイヴちゃんの料理下手を更正出来ないかもしれない』って……)
肝臓癌でぽっくりと亡くなった父と、その父を追うかのように同じ病で逝った母を思う。今でも、憎まれ口を叩く父とそれを宥める母の声をひどく懐かしく思う時がある。
「……もし今もお義父さんが生きてくれてたらこの子の事祝福してくれたかナ」
愛おしげに腹を撫でるイヴの肩を、柘榴は掌で包み込む。
「まあ、あの孫煩悩な親父の事だ、その子の事も憎まれ口叩きながら祝福してくれるさ」
「ん……そうだといいネ」
イヴは母親の優しい笑み浮かべ、妻の仕種で柘榴の胸にしなだれかかる。
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日常
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15人
参加キャラクター数
15人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2015年01月02日
参加申し込みの期限
2015年01月09日 11時00分
アクション投稿の期限
2015年01月09日 11時00分
参加キャラクター一覧
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