敬老の日に｜リアクション

敬老の日に

　そしてステージの上では。
（なんやら腰がしゃんとした気がするわ。ぴらみっとぱわーとかいうやつやろか？）
　梅は自分が若返ったことがよくわかっていない。
（また神魂か。なんとか場を取り繕わねば……）
　神魂の影響による事件には慣れている修だが、ここはひとの目も多い。
「これが脅威のピラミッドパワーだ！」
　大げさな身振りで梅を示すと、やんやの喝采が起こった。
（これで誤魔化せると良いな……）
　観客に笑顔を向けつつ、内心ハラハラしている修である。
「さあ、お次はこちらのシルクハットをごらんください」
　予定通り、何事もなかったようにマジックショーを続ける。　
「それでは、どなたかステージに上がっていただきましょう。希望者はいらっしゃいませんか？」

「ファッ、ワシの体が……」
　利悟老人は……いや、もう彼は老人ではなかった。
「……私は一体何を……ああ、敬老会に参加していたのか」
　そこにいるのは若き日そのままのイケメン軍人だった。
「祝われたり、歓迎されたりするのはとても有難いことだが、やはりされているだけというのは性に合わないな」　
「誰？」
　祐が目をこすっている。
「ん？　私はいつもどおりだぞ？　きみは伊予君だっけな？　何を見ているんだ。まるで豆鉄砲食らったような顔してるな」
「え、利悟さん？　そんな……まるで別人だぜ」
　どう見てもその姿は祐と同じくらいの年齢の凛々しい青年である。
　性格まで若返ったようで、真面目でやさしいがちょっと堅物な軍人になっている。
「座っているだけというのは忍びないな。何かしら片付けなど手伝いたい。できることはなんでも言ってくれ！」
　と利悟が立ち上がったところを修が指名した。
「ではそちらの方、お願いします」
「えっ？　ぶ、舞台に上がるのか？」
（下手に好奇心が強いタイプを選ぶとショーをかき回されてしまうからな）
　真面目そうな青年利悟は、恰好のお客だった。
「はいこちらのシルクハット、種も仕掛けもないのを確認してくださいね」
「う、うむ、確かに」
「それでは、ワン、ツー、スリー！」
　ハンカチをかぶせ掛け声とともに取り去ると、白いハトが羽ばたいた。
「これはすごい……」
　拍手が起こる。皆がハトに見とれているうちに、梅は手の中からバラを出して、利悟に手渡した。
「どうぞお」
　バチッと若い梅にウィンクされ、利悟は真っ赤になる。
「梅助手へのナンパはステージの後でお願いします」
　修もウィンクする。
「なんだそれは？　口説くということか？　破廉恥だ！」
「それじゃ貴方の恋愛運をカードに聞くとしましょうか」
　修がカードマジックを始める。
「私はそんなつもりでは……」
　利悟の声は軽快な音楽にかき消された。
　拍手喝采の中、マジックショーの幕は降ろされた。

「うまいこといったわ。ウケとったし良かったわ。お兄ちゃんおおきんな」
　梅が修と握手を交わす。
「なんやら手がつるつるしとるんやけどお兄ちゃんホントの魔術師ちゃうか？」
「鏡を見てはいかがですか？」　
　だが舞台を降りた途端、梅の姿はもとに戻ってしまった。