敬老の日に｜リアクション

敬老の日に

～敬老会、スタート～

「これで何歩歩いたか表示されます。そしてこのスイッチを押すと、この数字が０に戻ります」
　旧市街地で雑貨店をしている天動記士郎は、会場で万歩計や入れ歯洗い機の使い方をお年寄りに説明していた。
　イベントの景品として置いて帰るだけでは不親切なので、少しばかりお年寄りにそれらのグッズの使い方を教えてから帰ろう、というわけだ。
「ああ、わかっとる、万歩計は使っちょるよ」
「そうでしたか」
　そう言うお年寄りに苦笑する。
「結構お年寄りが元気ですねえ……」
　そう呟く記士郎自身があまり若さがない。ふだんもぼーっと空を見ていることが多い。
「皆さん、お待たせいたしました。お席におつきください」
　智瑜のアナウンスで、うろうろしていたお年寄りも座り始める。
「どうやら始まるようですね」
　記士郎も会場の片隅で椅子に座り、少し出し物を見せてもらうことにした。
　しかし主催者の長い挨拶やらを聞いているうちに眠くなり、記士郎はそのままうとうとし始めた……

「やっぱり幼女はええのお」
　舞台で歌う幼女をガン見していた納利悟は、幼女が退場した途端舞台への興味を失い、あくびを始めた。
「あ、納のお爺さんじゃないっすか！　ちっす！」
　そこに、ボランティアで参加していた伊予祐が声をかけた。
「最近は調子いかがですか？」
　世話好きで島内のあちこちをバイクで走り回っている祐は、孫を介して利悟のことも知っている。
　しかし利悟のほうは興味なさげな表情だ。
「夏ももう終わりかのお」

「次は、寝子島の奇術師シュウ＆ウメさんによるマジックショーです」　
　智瑜が紹介すると、軽やかな音楽と共に幕が上がり、修と梅が舞台に登場、一礼した。
　舞台にはピラミッドのようなものがある。
「皆さんこんにちは、寝子島の奇術師シュウです」
「助手のウメやで。今日は若いお兄ちゃんと一緒に手品をやらしていただくで」
　スタッフ、お婆さんたちを中心に拍手が起こる。
「梅さん、今日はこのピラミッドの中に入っていただきます」
「ピラミッドってあれやろ、エジプトのお墓やろ。わたいミイラになってしまうんかいな」
「いえいえ、ピラミッドは不思議な力があると言われていますから、梅さんを守ってくれますよ。難しい術を使いますが、俺を信じてください」
「へえ、ほな入らしていただきまひょか」
　息ぴったりの軽妙なトークに観客は引き込まれていく。
　梅が箱の中へ姿を消すと、修はそれを一回転させ、そばに立てかけてあった大ぶりの剣を取り出す。
　そして用意してあった大根にぶすり、と突き刺してみせた。
「この通り、本物です。大根は宮祀青果店さんからご提供いただきました。あとでスタッフが美味しくいただきますのでご安心を」　
　笑いを取った後、真剣な表情になった修は、剣を箱に向け、振ってみせる。
「今からこの剣を、このピラミッドに刺します」
　音楽はいつしかスリリングなものに変わっている。
「それでは、いきます！」
　真剣な面持ちで一本、そしてまた一本と、剣をピラミッドに突き刺さしていく修。
「ピラミッドパワーで守られてるので何本も刺しちゃいます」
　客席の私語はやみ、皆固唾を飲んで見守っている。
（串刺しのオオネタを冒頭に行い、気持ちを掴む。細工は上々だ）
　修は５本の剣をピラミッドに刺し終えた。
　梅は箱下部の格納場所で横になり丸くなっている。剣は何もない箱上部の空間のみを刺しているのだ。
　また箱を一回転させると、今度は逆に一本ずつ抜いていく。そして大きな布をかけた。
「それでは、箱を開けてみましょう」
　観客が見守る中、勢いよく布を引き、蓋を開く。
　出てきた梅は……無傷だ。だがそれだけではなかった。
　若返った梅が、にっこりと客席に向かって手を振っている。
「！！……どなたです？」
　思わず素に返った修が問いかけた。
　会場中にどよめきが起こっている。
　そしてそれは、梅に対するものだけではなかったのだ。

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