【体育祭】熱闘！　寝子高伝統の騎馬戦！｜リアクション

【体育祭】熱闘！　寝子高伝統の騎馬戦！

　……ところ変わって保健室。
　誰も入ってこられないように、入口に柊沢を立たせている。
「ったく、無茶しすぎだってーの！」
　宇佐見は御剣と武道の背中に左右の手を当てて意識を集中させていた。
　彼のろっこん『Rod of Asclepius』は、触れた者の怪我を治すことが出来るのだ。
　なので、現在、保健室はもれいび以外立ち入り禁止である。
　御剣は防御でダメージが蓄積した肩を、そして武道は……。
「イヤー、実は接触時に足挫いちゃってて☆　でもなかなか言えなかった、ごめーんね？」
　この調子である。
　幸い、軽い捻挫だったのですぐに回復できた。
「あと、正也ちゃんの鼻も念の為に触っておくか」
「アッハイ、ご迷惑おかけしました……」
　桐野は流れるような所作で土下座をした。
「……志波、話がある」
　楪は武道を保健室から連れ出し、２人きりになる。
「……志波、なんで怪我のことを言わなかった？」
　向き合うなり、楪は顔を強ばらせた。
「私たちはチームだった。言ってくれればフォローもできたはずだ」
「だからごめーん！　余計な心配掛けたくなかったんダッテ！」
　普段通り軽口を叩く武道。
　いつもならここで会話が終わるはずだった。
　……楪が、武道の胸ぐらを掴んだ。
「自分の体だぞ？　もっと大事にしたらどうだ？」
　彼女の脳裏に獅子島の言葉がよぎる。
『こいつを見ると構いたくなるよーな気がしてさ』
　その言葉の意味が、ようやく理解できた。
「志波の体育祭を成功させたいという気持ち、私も強く感じていた！　だから今まで多少の無茶も目を瞑ってきた！　でもな、仲間に黙って無茶を通すのは意味合いが違う！」
　楪は志波に詰め寄る。
「……チームメンバーに言わないってことは、私たちを信頼してくれてなかったと受け取られても仕方がないんだぞ？」
「……ごめん、櫻ちゃん」
　言わんとしていることが、ようやく武道は理解できた。
　その顔から、おちゃらけた雰囲気は消えていた。
「でも、本当に士気を下げるようなことは言いたくなかったんだ」
「分かってる、志波の気持ちは……よく、分かってる……」
　胸の中でぐるぐると渦巻く、正体不明の感情。
　気持ち悪い。
　苦しい。
　可能ならば今すぐに吐き出してしまいたい。
　しかし、今の楪には、この感情にどんな名前をつけて吐き出せばいいのか分からなかった。
　楪の手が、武道から離れる。
「……こちらこそすまない。らしく、ないな……」
「いーや、思い切って言ってくれた方がありがたい時もある。……ありがと、櫻ちゃん」
　差し出される武道の手。
　ハイタッチ。
「……おつかれちゃーん☆　体育祭、楽しかったゼー！」
「ああ、同感だな……！」
　慣れない手つきで、楪はハイタッチを返した。
　相手の手のぬくもりが、お互いにやけに印象的だった。

　恵御納夫妻は、娘の夏朝に近付き声を掛ける。
　そして優しくハグをした。
「……頑張ったな」
　久隆は言葉少なに娘の頭を撫でてやる。
「見てたわよ～、すごかったわ！」
　愛娘が逞しくなっていた事に理沙は驚いていた。
「……夏朝、寝子島高校……良い所だな」
　生徒も先生も、島の人々も、全員が一生懸命で。
「そうねぇ、こんなところもあるのね……」
　理沙も騎馬戦だけで寝子島のエネルギー量を感じていた。
　それに夏朝は、わずかに口元を緩ませて答えた。
「うん……！　寝子高に来て、本当に良かったよ……！　来年も楽しみ……」
　娘の微笑んだ顔に、父は思う。
（強くなったな……）
　改めて寝子島のエネルギーの偉大さに敬意を表する久隆だった。
「そうそう、夏朝ちゃん、お腹空いていないかしら？　お弁当作ってきたんだけど……」
「本当に……？　うん、僕、食べたい……」
「よかったぁ！　そうだわ、お友達も一緒に誘ってらっしゃいな。私たちに紹介してほしいわ」
「うん……いいよ！」
　このあと、夏朝はチームメンバーの【ツバサ】たちや、酔っ払った酒浸と笑い上戸の十文字、そして絡み酒の咲の『擬似ヨッパ三人娘』が乱入することで、大宴会になっていくのだが……。
　その話は、あえて語らずに彼らの胸の中に収めておくことにしよう。

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