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９月の★ハッピーバースデイ
●９月６日 山田 勘三郎の誕生日●
【旧市街〜寝子島高校】
いつもより早く目が覚めた。もちろん理由は分かってる、
「今日はこの俺、山田 勘三郎の誕生日だからな！」
夏休み明けのなんてことない平日も、彼にとってはスペシャルな１日。寝起きのボサ髪を手櫛で整えれば、鏡に映った自分も、何だかグッと男前になった気がする。１６歳になったその男前に、ニッカリ白い歯で笑い返して、
「おっし！ 何だか今日は、いいことありそうな気がするぜ！」
そんな予感にせっつかれるように、山田は慌ただしく家を出る。夕飯は何がいいかと、のんびり訊ねてくる母親の声がしたが、それどころじゃない、時間を無駄にしてはいられない。
「なんたって、年に１度の誕生日なんだからな！」
きっと良いことがあるに違いないのだ。愛用の自転車を猛然と漕いで学校に着き、つんのめるような足取りでまず、山田は下駄箱へと向かう。
「そう、例えば下駄箱にラブレターが入ってたりとか……（ぱかっ）
なーんてな！ そんな事あるわきゃーねーやな。ははっ！」
いつもの大声で落胆を笑い飛ばし、次はいそいそと教室へと向かう。
「もしかして、先生が休みで苦手な古典が自習になったりとかな！」
「であるからして……コラ山田！ ワシの授業がそんなに退屈か！」
新学期早々、そんなうまい話は無かった。居眠りしていた所をこってり教師にはどやされ、
「いやいや！ もしかして売店で、焼きそばパンが半額で売れ残ってたりとか！」
財布を握り締め購買へと向かえば、今日に限って何故か、だだ甘系のパンしか残ってない。
「ま、まぁ、腹にたまれば何でもいいんだけどよ……」
そんな失意の昼休みを過ごし、気が付けばあっという間に放課後だ。
「おい勘三郎！ おまえ確か、今日が誕生日だったよな？」
クラスでいつもつるんでいる友人たちが、プレゼントをくれても、
「くーっ、いいのか、嬉しいぜ！ ねだるみてーでかっこ悪いから、
黙ってたのに……（パパパパパン！）って、のわああああっ！？」
それは爆竹仕掛けのびっくり箱で、笑い転げる悪友たちを、ヘッドロックで懲らしめ回る。
「ありがとよ！ おめーらの誕生日には倍にして返してやるからな首洗って待ってろよ！」
そんなこんなでいいことなんて何もないまま、ついに下校時刻になってしまった。
「あれっおかしいぜ？？ もっとこー、あるだろ何か、
誕生日っぽいイベントが！ せめて１個くらい！
……ってボヤいてたら雨まで降ってきやがったし、とことんツイてねーぞ俺！」
自転車で帰ろうとしたら、追い打ちを掛けるようにこのザマだ。仕方なく折りたたみ傘を広げ、とぼとぼと歩いて校門を出る山田を、頭に鞄を載せた女子たちが、悲鳴混じりに追い抜いていく。
「もーなんなの、この土砂降りの雨！」
「こんなの天気予報で言ってなかったよー！」
「ハッ、もしかしてコレ……出会いのチャンスなんじゃね！？」
悪運を幸運に変える男、山田勘三郎！ 自分史上最高の笑顔で振り向き、次に走ってきた女子に向かって、「あの！ よかったら一緒に入ってかねー？」と傘を差し出せば、
「ええのか？ 親切な若者じゃのう〜」
いや女子じゃなかった、知ってる近所の爺さんだった。ガックリと落胆をこらえて、
「ああ、俺は親切ないい若者だぜ……爺さんせめてその台詞、
あっちの女子の前でもっと大きな声で言って欲しかった……」
ボヤきながらも相合い傘で、きっちりその爺さんを家まで送り届けてやるのが、彼の良い所。雨も上がったし茶でも飲んでいけ、としきりに勧める爺さんの誘いはさすがに断り、
「勘弁してくれよ何が悲しくてせっかくの誕生日に爺さんと……んっ？」
門を出ようとした山田はそこでふと、庭木の枝の１本に、引っ掛かっている真っ赤な風船を見付けた。今のにわか雨に打たれて、空から迷い込んできたのだろうか。
「あれ……何か手紙が付いてるぞ」
紐の端の袋に小さく折り畳まれた、そのメモ用紙を何の気なしに広げれば。
そこには可愛らしい手書きの文字で……
Buona fortuna！
「って、読めねーーー！？ 何だこりゃ、英語か？」
何が書いてあるのか、山田には意味が分からなかった……。
「でもきっと、書いたのは可愛い女の子に違いないぜ！
何しろあれだ、字が可愛いからな！」
そういうことにしておこう。意味は分からないけど、きっと何か、いいことが書いてあるに違いない。そう自分に言い聞かせてその手紙をしまうと、ちょっぴり軽くなった足取りで、山田は家路につくのだった。
その晩、母親が夕食に、彼の好物を山と出してくれたのは。
もしかしたらその手紙が招き寄せた、ささやかな幸運だったのかもしれない。
Buona fortuna──あなたの幸せを祈ります
【旧市街〜寝子島高校】
いつもより早く目が覚めた。もちろん理由は分かってる、
「今日はこの俺、山田 勘三郎の誕生日だからな！」
夏休み明けのなんてことない平日も、彼にとってはスペシャルな１日。寝起きのボサ髪を手櫛で整えれば、鏡に映った自分も、何だかグッと男前になった気がする。１６歳になったその男前に、ニッカリ白い歯で笑い返して、
「おっし！ 何だか今日は、いいことありそうな気がするぜ！」
そんな予感にせっつかれるように、山田は慌ただしく家を出る。夕飯は何がいいかと、のんびり訊ねてくる母親の声がしたが、それどころじゃない、時間を無駄にしてはいられない。
「なんたって、年に１度の誕生日なんだからな！」
きっと良いことがあるに違いないのだ。愛用の自転車を猛然と漕いで学校に着き、つんのめるような足取りでまず、山田は下駄箱へと向かう。
「そう、例えば下駄箱にラブレターが入ってたりとか……（ぱかっ）
なーんてな！ そんな事あるわきゃーねーやな。ははっ！」
いつもの大声で落胆を笑い飛ばし、次はいそいそと教室へと向かう。
「もしかして、先生が休みで苦手な古典が自習になったりとかな！」
「であるからして……コラ山田！ ワシの授業がそんなに退屈か！」
新学期早々、そんなうまい話は無かった。居眠りしていた所をこってり教師にはどやされ、
「いやいや！ もしかして売店で、焼きそばパンが半額で売れ残ってたりとか！」
財布を握り締め購買へと向かえば、今日に限って何故か、だだ甘系のパンしか残ってない。
「ま、まぁ、腹にたまれば何でもいいんだけどよ……」
そんな失意の昼休みを過ごし、気が付けばあっという間に放課後だ。
「おい勘三郎！ おまえ確か、今日が誕生日だったよな？」
クラスでいつもつるんでいる友人たちが、プレゼントをくれても、
「くーっ、いいのか、嬉しいぜ！ ねだるみてーでかっこ悪いから、
黙ってたのに……（パパパパパン！）って、のわああああっ！？」
それは爆竹仕掛けのびっくり箱で、笑い転げる悪友たちを、ヘッドロックで懲らしめ回る。
「ありがとよ！ おめーらの誕生日には倍にして返してやるからな首洗って待ってろよ！」
そんなこんなでいいことなんて何もないまま、ついに下校時刻になってしまった。
「あれっおかしいぜ？？ もっとこー、あるだろ何か、
誕生日っぽいイベントが！ せめて１個くらい！
……ってボヤいてたら雨まで降ってきやがったし、とことんツイてねーぞ俺！」
自転車で帰ろうとしたら、追い打ちを掛けるようにこのザマだ。仕方なく折りたたみ傘を広げ、とぼとぼと歩いて校門を出る山田を、頭に鞄を載せた女子たちが、悲鳴混じりに追い抜いていく。
「もーなんなの、この土砂降りの雨！」
「こんなの天気予報で言ってなかったよー！」
「ハッ、もしかしてコレ……出会いのチャンスなんじゃね！？」
悪運を幸運に変える男、山田勘三郎！ 自分史上最高の笑顔で振り向き、次に走ってきた女子に向かって、「あの！ よかったら一緒に入ってかねー？」と傘を差し出せば、
「ええのか？ 親切な若者じゃのう〜」
いや女子じゃなかった、知ってる近所の爺さんだった。ガックリと落胆をこらえて、
「ああ、俺は親切ないい若者だぜ……爺さんせめてその台詞、
あっちの女子の前でもっと大きな声で言って欲しかった……」
ボヤきながらも相合い傘で、きっちりその爺さんを家まで送り届けてやるのが、彼の良い所。雨も上がったし茶でも飲んでいけ、としきりに勧める爺さんの誘いはさすがに断り、
「勘弁してくれよ何が悲しくてせっかくの誕生日に爺さんと……んっ？」
門を出ようとした山田はそこでふと、庭木の枝の１本に、引っ掛かっている真っ赤な風船を見付けた。今のにわか雨に打たれて、空から迷い込んできたのだろうか。
「あれ……何か手紙が付いてるぞ」
紐の端の袋に小さく折り畳まれた、そのメモ用紙を何の気なしに広げれば。
そこには可愛らしい手書きの文字で……
Buona fortuna！
「って、読めねーーー！？ 何だこりゃ、英語か？」
何が書いてあるのか、山田には意味が分からなかった……。
「でもきっと、書いたのは可愛い女の子に違いないぜ！
何しろあれだ、字が可愛いからな！」
そういうことにしておこう。意味は分からないけど、きっと何か、いいことが書いてあるに違いない。そう自分に言い聞かせてその手紙をしまうと、ちょっぴり軽くなった足取りで、山田は家路につくのだった。
その晩、母親が夕食に、彼の好物を山と出してくれたのは。
もしかしたらその手紙が招き寄せた、ささやかな幸運だったのかもしれない。
Buona fortuna──あなたの幸せを祈ります
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2014年12月28日
- 参加申し込みの期限
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- 2015年01月04日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2015年01月04日 11時00分
