帰って下さい冬将軍！｜リアクション

帰って下さい冬将軍！

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　払っても払ってもパーカーに付着する雪を、黒兎都は懸命に払っていた。常に身につけている黒いパーカーは、今や雪で白く染まっている。
（傘くらい、持ってくれば良かった……！）
　雪を舐めていた。すぐに止むだろうと出かけた自分が甘かったのだろうと、都は自分の選択を後悔する。
「帰るにも、寮までの距離と同じくらいだし……寒い……」
　歯の根が合わず、カチカチと震える。にっちもさっちもいかないとはまさにこのことか、上体を丸めながら、都は足を進めていく。
「…………キャッ！？」
　気を抜いていたらしい。足が滑り、体勢を崩した都はその場に尻餅をつく。
　雪のおかげで痛みはなかったが、一人でも恥ずかしいものは恥ずかしい。ばつの悪そうな表情を浮かべて立ち上がろうとした都の上で、何やら擦れるような音がした。
　不審に思って上を見上げた都の視界が白く染まる。
「……っ！？」
　一瞬、なにが起きたか分からず都は目を瞬かせた。視界いっぱいに広がる白、肌に感じる冷たさ……どうやら、店の軒先に積もった雪が落ちてきたらしい。
「大丈夫か？」
　目の前に差し出された手の主は、新江天懸。都はその手を取り、立ち上がると全身についた雪を払い除ける。
「ありがとう。助かった」
「いいって。いきなりの雪だからな、慣れないと歩くのも大変だろ。……随分寒そうなカッコしてるけど、この近所に住んでんのか？」
　都が軽く頭を下げると、髪についていた雪が落ちた。
　天懸は目を細めながら都を見下ろし、雪まみれの都を観察する。
「いや、うちはこの辺りの人じゃなくて……雪が降ってたからちょっと散歩に出ただけだ」
「随分寒そうだけど、良かったら温かいもので、も……」
　いつもの調子でナンパをしようとする天懸の言葉が、途中で途切れる。視線は都の背後を見つめていた。
「……あれが、冬将軍？　悪ぃ、温まりたいのは山々なんだけどよ、ちっと用事が出来ちまった。あー……とりあえずこれ、使ってくれ」
　そう言って天懸はポケットからカイロを取り出し、都に手渡す。掌から、じんわりと熱が伝わってくる。
「ありがとう。何から何まで申し訳ないの」
「いいっていいって。んじゃ、また会ったら今度こそ茶でも飲もうぜ」
　都は受け取ったカイロを握り締め、ぼんやりと天懸の姿を見送った。
「とりあえず、何か……温かいもの……温いところ……」
　白い息を吐いて、都は再び歩き出した。今度は転ばないよう、しっかりと地面を踏みしめながら。

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（――大体、こんな感じかな）
　タカシの目の前にはかまくらがあった。平型スコップを杖代わりに疲労した体を支え、出来上がったかまくらを眺める。
　一人で作るのはそれなりに重労働だったが、出来上がってしまえば疲れは吹き飛んでいた。
　傍らに平型スコップを置き、腰をかがめてかまくらの中に入ってみる。
　中は暖かく、タカシ一人なら十分に寛げるだけの広さがある。満足げに頷いて一度中から出ると、平型スコップを片手に一度家へ戻る。
　かまくらのお供は何が良いだろうか、色々と考えるタカシの足取りは、いつもより僅かに軽かった。