帰って下さい冬将軍！｜リアクション

帰って下さい冬将軍！

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「この季節だと、やはり鰯が美味しいですね」
　姫と理紗子、冬将軍は鍋を囲んでいた。魚市場の一角、獲れたての魚を提供する店で、三人は食事をしていた。
「まだまだ、寝子島はこれだけではないのです。私が知られざる寝子島をご案内しますからね、覚悟をしておいて下さい」
「ははは……それは楽しみだ」
　どこまで本気なのか、姫は楽しそうに言いながら歯を見せて笑う。微笑ましい姿に、理紗子もつられて笑った。

　腹ごしらえを終えたら、次は散策である。
「ではまず、我が猫屋敷一族に伝わる埋蔵金の隠し場所に……」
「この島に、そんな所があったなんて……」
「…………冗談です。たとえあったとしても、やすやす他人に教えないのがお約束です」
　ボケを理紗子は真面目に受け取ったらしい、姫はばつの悪そうな表情で自分の言葉を撤回する。さて、観光ならどこが良いだろうかと辺りを見回して――
「そうです。せっかくなので色々とご案内しましょう。理紗子さんも、お時間があるようなら是非ご一緒にいかがですか？」
「ええ、じゃあご一緒させてもらおうかな。ここに住んではいるけれど、あんまり島のことを知らないのよね」
「それはいい機会です。では、猫屋敷姫による、楽しい寝子島ツアーの始まりです」
　姫は先陣をきって歩き出す。その小さな後姿に、理紗子と冬将軍はついていった。
　さすがは寝子島在住民族というべきだろうか、姫の案内は多岐に富んでいた。観光客向けの土産物屋や、地元に密着した美味しいお惣菜屋。変わったところでは猫の集まるスポットなど、多くの場所を紹介していった。
　薫風常葉の前で、姫は立ち止まる。
「とりあえず、旧市街を中心に案内してみましたが……ご満足頂けましたか？」
「ああ、大満足だ」
「それでは、帰って頂けるのですね？」
「今すぐに、というわけにはいかないが……猫用の備蓄が尽きる前までには必ず帰るよ」
　冬将軍の回答を聞き、姫は大きく頷く。
「さて、……今度は一人でどこかに行ってみようかな。可愛らしいお嬢さん達の時間を、これ以上とるのは忍びない。理紗子さん、姫さん、今日はありがとう」
「いえ、どういたしまして……こちらこそ、色々と回ることが出来てよかったです」
　理紗子は顔の前で片手を振る。いつのまにか、旅館の横には雪だるまが一つ出来ていた。
「それじゃあ、また冬に。……儂が言うのもなんだが、体を冷やさないようにな」
　片手を振って、冬将軍は去っていった。残された二人は、自然と見つめあう。
「ええと……お茶でも、飲んでいく？　案内してくれたのだし、そのくらいは……」
「なら、ホットミルクがいいです。美味しい店を知っているので、そこでもいいですか？」
「もちろん。それじゃ、行きましょうか」
　姫が示す方向に、理紗子は歩き出す。今日一日で随分と島に詳しくなった、これなら休みが明けてからも仕事を頑張れそうだ。自分の心が軽くなったのを感じながら、姫に置いていかれないよう理紗子は足を速めた。

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